闇に咲く花~王を愛した少年~
第4章 露見
孫大妃が何故、誠徳君をああまで厳しく仕付けているかは、直に知れた。誠恵は暇があると、趙尚宮の部屋で老いた尚宮の脚腰を揉むことがある。誠恵が光宗の寵愛を受けるようになって、趙尚宮は〝殿下のご寵愛をお受けする方にそのようなことをして頂くとは畏れ多い〟と恐縮した。
だが、誠恵は笑った。
―私は、ただの女官にございます。趙尚宮さまには孫のように可愛がって頂いているのです。せめて、ご恩返しにこれくらいのことはさせて下さいませ。
この趙尚宮もまた、誠恵に一日も早く側室としての位階を賜るようにと勧める一人だ。むろん、誠恵の立場を思ってのことである。
思いがけず世子と遭遇した誠恵は、どうしてもあの傷のことが気になった。それで、いつものように肩を揉むついでに、趙尚宮に訊ねたのだ。
宮廷生活の長い彼女は後宮どころか、宮殿の生き字引のような存在である。複数の尚宮を統率する提調尚宮(チェジヨサングン)(後宮女官長)でさえ、この趙尚宮よりは若いのだ。
誠恵は自分が見たままを正直に打ち明けた。
「何故、大妃さまは、ご実子でいらっしゃる世子邸下を鞭打たれるのでしょう?」
「それは、そなたも子を生めば判ることでしょう」
趙尚宮は気持ち良さそうに眼を瞑り、しみじみと言った。
「もっとも、私も子など生んだこともないゆえ、実のところ、推測するしかないことですがね」
趙尚宮の言葉遣いが変わったのは、やはり、誠恵が王と夜を過ごすようになってからのことだ。最初は照れ臭いから止めて欲しいと頼んだのだが、流石に趙尚宮もこればかりは受け容れてくれなかった。
「鞭打つことが大妃さまなりの愛情なのですよ」
趙尚宮の言葉に、誠恵は我が身が幼い王子に言ったことを思い出した。
―親は子が可愛いからこそ、必要以上に厳しくなるものにございます。
だが、あれほど酷い傷痕が残るまで鞭打つのは行き過ぎではないだろうか。
誠恵の心を見抜いたように、趙尚宮は続ける。
だが、誠恵は笑った。
―私は、ただの女官にございます。趙尚宮さまには孫のように可愛がって頂いているのです。せめて、ご恩返しにこれくらいのことはさせて下さいませ。
この趙尚宮もまた、誠恵に一日も早く側室としての位階を賜るようにと勧める一人だ。むろん、誠恵の立場を思ってのことである。
思いがけず世子と遭遇した誠恵は、どうしてもあの傷のことが気になった。それで、いつものように肩を揉むついでに、趙尚宮に訊ねたのだ。
宮廷生活の長い彼女は後宮どころか、宮殿の生き字引のような存在である。複数の尚宮を統率する提調尚宮(チェジヨサングン)(後宮女官長)でさえ、この趙尚宮よりは若いのだ。
誠恵は自分が見たままを正直に打ち明けた。
「何故、大妃さまは、ご実子でいらっしゃる世子邸下を鞭打たれるのでしょう?」
「それは、そなたも子を生めば判ることでしょう」
趙尚宮は気持ち良さそうに眼を瞑り、しみじみと言った。
「もっとも、私も子など生んだこともないゆえ、実のところ、推測するしかないことですがね」
趙尚宮の言葉遣いが変わったのは、やはり、誠恵が王と夜を過ごすようになってからのことだ。最初は照れ臭いから止めて欲しいと頼んだのだが、流石に趙尚宮もこればかりは受け容れてくれなかった。
「鞭打つことが大妃さまなりの愛情なのですよ」
趙尚宮の言葉に、誠恵は我が身が幼い王子に言ったことを思い出した。
―親は子が可愛いからこそ、必要以上に厳しくなるものにございます。
だが、あれほど酷い傷痕が残るまで鞭打つのは行き過ぎではないだろうか。
誠恵の心を見抜いたように、趙尚宮は続ける。