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闇に咲く花~王を愛した少年~

第4章 露見

「大妃さまは二十二歳のお若さで未亡人となられ、先代さまの崩御と共に、世子邸下はお父君を失われました。頼りにする良人に先立たれた大妃さまは懸命なのですよ。早くに父君を失い、母親の手一つだけで育てていると侮られてはならないと世子邸下を殊更厳しくお育てしておいでなのです。それでなくとも、大妃さまの回りには色々なことを申す者たちがいます。国王殿下が実の兄君のお子である世子邸下を蔑ろになさるはずもないのに、廃世子になるかもしれぬ、などと余計なことを吹き込むのです。それで、大妃さまは余計に思いつめられるのでしょう」
「殿下は世子邸下のことをお心より大切に思われておいでです」
 誠恵が呟くと、趙尚宮は深く頷いた。
「私もよく存じ上げていますよ。それに、いつも殿下のお側にいるあなたがそう仰るのなら、間違いはないでしょうからね。張女官、女の幸せとは心からお慕いする殿方に添うことですよ。女官として入宮したその日から、私たちは〝咲いて散る花〟の哀しい宿命を負うことになります。後宮にあまたの女官がひしめいてはいても、殿下のお眼に止まることができるのは、ほんの一人か二人。あなたは、その稀なる幸運な方として選ばれたのだから、もっと素直になって殿下の御意を一日も早くお受けすることです」
 それからほどなく、誠恵は趙尚宮の部屋から下がった。
―女の幸せとは心からお慕いする殿方に添うことですよ。
 趙尚宮の言葉が心に痛い。
 だが、自分は〝女〟ではない。幾ら布を胸や腰に巻いて人眼をごまかし少女の姿をしていても、所詮は男にすぎない。男である自分がどうして光宗の愛を受け容れることができるだろう。
 光宗が普通の男であれば、誠恵はとっくに押し倒され、手籠めにされかかっていただろう。国王の地位にあり、望めば何でも意のままにできる人が一介の女官の意思を尊重して、辛抱強く誠恵の方から光宗の胸に飛び込んでゆくのを待ち続けている。
 衣服を脱がされれば、男だと露見してしまうから、その時、〝任務〟は失敗に終わるはずだ。〝任務〟が今も続行しているのは、光宗の優しさゆえかもしれない。光宗を暗殺するための〝任務〟を遂げる機会が生命を狙われる当の光宗の優しさによって与えられているとは―。あまりにも哀しいことだ。

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