
闇に咲く花~王を愛した少年~
第4章 露見
誠恵が応えあぐねていると、王子は勢い込んだ。
「もしかして、趙尚宮に叱られたのか?」
この幼い世子も趙尚宮の怖さはよく知っているらしい。こんなときながら、おかしくなってしまう。
不思議だ。この王子と一緒にいると、村に残してきた弟を思い出す。心が和むのは、そのせいだろう。
誠恵は鹿爪らしく首を振る。
「いいえ、世子邸下。趙尚宮さまは、とても良くして下さいます。時々、物凄く怖いときもございますけれど」
「そうだろう? 趙尚宮は〝怖いお婆さま〟だと国王殿下も仰せであった。私も悪戯をして、何度も叱られたぞ」
と、またしても当の趙尚宮が聞けば、怒り狂うだろう話になった。
二人はしばらく顔を見合わせていたが、やがて、どちらからともなく吹き出し、声を上げて笑った。その時、二人の脳裡にカンカンに怒っている趙尚宮の顔が浮かんでいたのは言うまでもない。
「良かった、泣いていた緑花が笑った」
嬉しげに言う王子に、誠恵は微笑む。
「世子邸下のお陰にございます」
そのときだった。
「国王殿下のおなり~」
内官の先触れの声が響き渡り、国王を中心とする一団が近づいてきた。
緋色の天蓋を高々と掲げた内官が光宗の後ろから付き従い、大殿付きの内官、尚宮、更には大勢の女官が静々と続く。
「二人とも、やけに愉しそうではないか」
光宗の機嫌の良い声がして、王子と誠恵は慌てて頭を下げる。
「世子は流石は予の甥だ。早々と緑花の知り合いになっておるとは」
「叔父う―」
言いかけて王子は慌てて言い直した。
「国王殿下」
いつも大妃からくどいほど念を押されている。
―たとえ、あなたの叔父上ではあっても、あのお方は国王殿下なのです。お逢いしたときには叔父上とお呼びしてはなりませぬ。国王殿下とお呼びして、礼を尽くすのです。
「何だ、何だ。予は間違いなく、そなたの叔父ゆえ、叔父上と呼びたければ呼ぶが良い。何を遠慮することがあろう」
光宗がにこやかに言うと、王子は嬉しげに叫び、光宗に抱きついた。
「もしかして、趙尚宮に叱られたのか?」
この幼い世子も趙尚宮の怖さはよく知っているらしい。こんなときながら、おかしくなってしまう。
不思議だ。この王子と一緒にいると、村に残してきた弟を思い出す。心が和むのは、そのせいだろう。
誠恵は鹿爪らしく首を振る。
「いいえ、世子邸下。趙尚宮さまは、とても良くして下さいます。時々、物凄く怖いときもございますけれど」
「そうだろう? 趙尚宮は〝怖いお婆さま〟だと国王殿下も仰せであった。私も悪戯をして、何度も叱られたぞ」
と、またしても当の趙尚宮が聞けば、怒り狂うだろう話になった。
二人はしばらく顔を見合わせていたが、やがて、どちらからともなく吹き出し、声を上げて笑った。その時、二人の脳裡にカンカンに怒っている趙尚宮の顔が浮かんでいたのは言うまでもない。
「良かった、泣いていた緑花が笑った」
嬉しげに言う王子に、誠恵は微笑む。
「世子邸下のお陰にございます」
そのときだった。
「国王殿下のおなり~」
内官の先触れの声が響き渡り、国王を中心とする一団が近づいてきた。
緋色の天蓋を高々と掲げた内官が光宗の後ろから付き従い、大殿付きの内官、尚宮、更には大勢の女官が静々と続く。
「二人とも、やけに愉しそうではないか」
光宗の機嫌の良い声がして、王子と誠恵は慌てて頭を下げる。
「世子は流石は予の甥だ。早々と緑花の知り合いになっておるとは」
「叔父う―」
言いかけて王子は慌てて言い直した。
「国王殿下」
いつも大妃からくどいほど念を押されている。
―たとえ、あなたの叔父上ではあっても、あのお方は国王殿下なのです。お逢いしたときには叔父上とお呼びしてはなりませぬ。国王殿下とお呼びして、礼を尽くすのです。
「何だ、何だ。予は間違いなく、そなたの叔父ゆえ、叔父上と呼びたければ呼ぶが良い。何を遠慮することがあろう」
光宗がにこやかに言うと、王子は嬉しげに叫び、光宗に抱きついた。
