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闇に咲く花~王を愛した少年~

第4章 露見

「叔父上!」
 たまにしか逢えないけれど、いつも優しく遊んでくれるこの若い叔父が、世子は大好きなのだ。
 光宗は世子を抱き上げると、破顔した。
「ホウ、これは、しばらく抱かぬ中に大きくなったな。緑花、子どもの成長とは実に早いものだ。ついこの間までは、おしめをした乳呑み児であったのに」
 傍らの誠恵を振り返りながら、明るい声で言う。
「叔父上、私は乳呑み児でもございませんし、おしめもしておりませぬ!」
 王子がムウと口を尖らせるのを見た光宗は、声を立てて笑った。
「なるほど、そなたの申すとおりだ。済まぬ、世子よ。親というものは、子はいつまでも幼いままだと思いたがるものなのだ」
「叔父上、私は大きくなったら、緑花を妻に迎えることに決めました。先日、緑花が転んで泣いていた私を助けてくれたのです」
 無邪気な発言ではあったが、一瞬、光宗の背後に控える内官や尚宮たちが意味ありげに顔を見合わせた。
 しかし、光宗は顔色も変えず、世子を腕に抱いたまま優しく言った。
「それは聞き捨てならぬ。世子、緑花は既に予の妃となっておる。予の妻である緑花をそなたにやることはできぬ」
「さようにございますか。緑花は女官の服を着ておるゆえ、叔父上のお妃とは存じませんでした。叔父上、緑花は特別尚宮なのですね」
 それが七歳の子どもの想像力の限界であったろう。国王の夜伽を務めるのは正式な側室の他に、〝特別尚宮〟、〝承恩尚宮〟と呼ばれる尚宮が存在した。これは趙尚宮のような役付きの尚宮とは異なり、国王の寵愛を受けた女官を一般の女官とは区別して、特別待遇を与えるための名誉職としての呼称である。
 〝尚宮〟と名はついても、特に仕事があるわけでもない。ただ〝特別尚宮〟として認められることは、後宮―つまり側室としては認められないということでもあった。〝特別尚宮〟の呼称を与えられた者が側室になることはない。きらびやかな衣服を纏う妃たちとは異なり、〝特別尚宮〟は女官のお仕着せの制服を着用するのだ。
 王子の無邪気な言葉は、更にその場の雰囲気を凍らせた。誠恵が光宗の寵愛を受けながら、側室になるようにとの意を拒み続けていることは誰もが知っている。

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