テキストサイズ

闇に咲く花~王を愛した少年~

第4章 露見

 提調尚宮などは
―殿下の思し召しをご辞退申し上げるとは、全く身の程知らずな娘だ。側室にはならぬと申すなら、この上は中殿の座でも望む気か? ご寵愛が厚いことを傘に着て、高慢になるにも程がある!
 と、誠恵の不遜さを憤っているという。
 そのような意見が後宮や朝廷でも多いのは事実だった。
「まあ、そういうことだな」
 気まずい雰囲気の中で、光宗一人だけが顔色も態度も変えなかった。
 光宗は笑いながら言い、世子をそっと降ろす。
「そうですか、それでは、叔父上。私は諦めます。叔父上の大切なお方を私が妃に迎えるわけには参りませぬ」
 世子は邪気のない様子で元気よく言い、今度は誠恵に言った。
「緑花、国王殿下が世子である私の父上ならば、殿下の妻のそなたは、私の母上にもなる。これからは母上と思うても良いか?」
「―はい」
 この場合、そう応えるしかなかったが、やはり、光宗に付き従う尚宮や内官たちの反応が気になる。
 側室でもないくせに、世子の母親気取りだ―などと言われてはたまらない。
 と、光宗の傍らに控えていた柳内官が呟くように言った。
「殿下、真に微笑ましい光景にございます。我らには、まるでお三方が実の親子のように見えてなりませぬ」
 その言葉に、誠恵は愕然とした。それでなくとも、世子の無邪気な言葉でおかしくなったその場の温度が更に低くなったような気がした。
 皆の冷たい視線が一斉に自分に向けられ、無数の氷の刃がその身に突き刺さっているようだ。
「私は、これで失礼致します」
 たまらず誠恵は頭を下げると、逃げるようにその場から走り去った。こんな去り方をしたお陰で、また〝あの娘は国王殿下と世子邸下の御前で無礼を働いた〟と囁かれるのは間違いない。
 泣き声の聞こえない場所まで走ってきた誠恵は、堪らずすすり泣いた。折角乾いた涙がまた溢れてしまった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ