
闇に咲く花~王を愛した少年~
第4章 露見
嗚呼、私がこのお方の心をここまで追いつめたのだ。
光宗の言葉は正しいのかもしれない。たとえ、その気はなくても、結果として自分が若い王の心を弄んだことに変わりはない。
誠恵は最後の力を振り絞った。すべての力を込めて光宗の身体を両手で押すと、今度は呆気なく逞しい身体は離れた。
ガタガタと戸を揺らしていると、心張り棒が外れたのか、戸が開いた。
誠恵はもう、後も振り返らず、夢中で走った。途中で立ち止まれば、光宗が追いかけてきそうで怖かった。
漸く殿舎まで帰って自室に行こうと廊下を歩いていた時、趙尚宮が息を呑んで自分を見ているのに気付いた。
あまりにも怯えていて、我が身が今、どんな酷い格好をしているか―半裸に近い姿になっているかも認識できていないのだ。人眼を気にしている余裕など到底ない。
「張女官、その有様は、いかがしたのですか? 殿下のご寵愛をひとたびお受けした女官を宮殿内で辱めようとする不逞な輩がいるとは―」
言いかけた趙尚宮がはたと口をつぐんだ。
他ならぬその国王から度重なる召し出しを受けても、誠恵が応じなかったことを趙尚宮は知っている。
「まさか、張女官」
趙尚宮は絶句した。後宮の女官は王の女と見なされ、王が望めば、何があろうと閨に上がらねばならない。この娘は幾度も光宗の相手をしたにも拘わらず、王の誘いを真っ向から拒んだのだ。
聖君と国中の民から慕われる世に並びなき賢君光宗。そんな彼ですらも、恋をしてしまえば、ただ一人の若い男になる。欲しい女を得たいと、つい力をもって女を我が物にしようとしたのだろう。
「―趙尚宮さま」
誠恵は趙尚宮の胸に飛び込み、号泣した。
趙尚宮は、これ以上人眼につかぬよう、誠恵を自分の部屋に連れていった。新しいチョゴリをそっと肩から羽織らせてやり、その肩を宥めるように叩く。
光宗の言葉は正しいのかもしれない。たとえ、その気はなくても、結果として自分が若い王の心を弄んだことに変わりはない。
誠恵は最後の力を振り絞った。すべての力を込めて光宗の身体を両手で押すと、今度は呆気なく逞しい身体は離れた。
ガタガタと戸を揺らしていると、心張り棒が外れたのか、戸が開いた。
誠恵はもう、後も振り返らず、夢中で走った。途中で立ち止まれば、光宗が追いかけてきそうで怖かった。
漸く殿舎まで帰って自室に行こうと廊下を歩いていた時、趙尚宮が息を呑んで自分を見ているのに気付いた。
あまりにも怯えていて、我が身が今、どんな酷い格好をしているか―半裸に近い姿になっているかも認識できていないのだ。人眼を気にしている余裕など到底ない。
「張女官、その有様は、いかがしたのですか? 殿下のご寵愛をひとたびお受けした女官を宮殿内で辱めようとする不逞な輩がいるとは―」
言いかけた趙尚宮がはたと口をつぐんだ。
他ならぬその国王から度重なる召し出しを受けても、誠恵が応じなかったことを趙尚宮は知っている。
「まさか、張女官」
趙尚宮は絶句した。後宮の女官は王の女と見なされ、王が望めば、何があろうと閨に上がらねばならない。この娘は幾度も光宗の相手をしたにも拘わらず、王の誘いを真っ向から拒んだのだ。
聖君と国中の民から慕われる世に並びなき賢君光宗。そんな彼ですらも、恋をしてしまえば、ただ一人の若い男になる。欲しい女を得たいと、つい力をもって女を我が物にしようとしたのだろう。
「―趙尚宮さま」
誠恵は趙尚宮の胸に飛び込み、号泣した。
趙尚宮は、これ以上人眼につかぬよう、誠恵を自分の部屋に連れていった。新しいチョゴリをそっと肩から羽織らせてやり、その肩を宥めるように叩く。
