
闇に咲く花~王を愛した少年~
第4章 露見
「いいえ、邸下。私には今、見えております。国王殿下が築いた朝鮮の繁栄を更に世子邸下がお継ぎになり、私たちのこの国がますます栄えてゆくその様がこの眼に確かに浮かんでおります」
―世子邸下、千歳(チヨンセ)、世子邸下、千歳。
この時、誠恵の耳には確かに宮殿を埋め尽くす廷臣たちの歓呼が聞こえていた。
自分とあのひとがもし結ばれたら、我が身が女であったら、こんな可愛らしく賢い王子を授かることができただろうか。
叶うことなら、女の身に生まれたかった。せめて、次の世では生まれ変わって女になりたい。
もし自分が女であれば、堂々とあの方の愛を受け容れられ、あの方をここまでお苦しめせずに済むのに。男でもなく女でもない半端な我が身がこれほど恨めしいと思ったことはない。
だが、所詮は見果てぬ夢。自分が女になるなんて、あり得ない。あの方の愛を受け容れられない自分があの方のためにできるたった一つのことは―。
誠恵はつと視線を動かした。その先には、あどけない笑みを浮かべた王子がいる。誠恵を信じ切っている、安堵しきった表情。
ふいに、その整った貌に領議政孫尚善の顔が重なった。こうしてよくよく見ると、世子は外祖父によく似ている。最初の頃は光宗に生き写しだと思っていたものだけれど、血とは不思議なものだ。見方によっては光宗にも似ているし、領議政にも似ている。
自分の人生を滅茶苦茶にし、狂わせた憎い男、孫尚善。この幼い王子は紛れもなく、あの男の血を引く孫なのだ。
誠恵は一歩、世子に近づく。一歩、また、一歩と微笑みさえ浮かべて世子に近づいた。
―憎い孫尚善の血を引く王子など、死んでしまえば良い。
誠恵の両手が王子の細い首にかかる。きりきりと力を込めて締め上げながら、誠恵は涙を流した。
王子はしばらくもがいていたが、直にくったりと力を失い、動かなくなった。
お許し下さい、邸下。
誠徳君と出逢ってからの想い出の数々が甦る。笑顔、泣き顔、様々な表情が光の粒子のようにきらめきながら、脳裡を駆けめぐった。
―たとえ一緒に遊ぶ兄弟がおらずとも、そなたを姉のように思い慕うておるゆえ、淋しくはない。
見上げてそう言ったときの愛くるしい笑顔が唐突に甦り、胸が苦しくなった。
―世子邸下、千歳(チヨンセ)、世子邸下、千歳。
この時、誠恵の耳には確かに宮殿を埋め尽くす廷臣たちの歓呼が聞こえていた。
自分とあのひとがもし結ばれたら、我が身が女であったら、こんな可愛らしく賢い王子を授かることができただろうか。
叶うことなら、女の身に生まれたかった。せめて、次の世では生まれ変わって女になりたい。
もし自分が女であれば、堂々とあの方の愛を受け容れられ、あの方をここまでお苦しめせずに済むのに。男でもなく女でもない半端な我が身がこれほど恨めしいと思ったことはない。
だが、所詮は見果てぬ夢。自分が女になるなんて、あり得ない。あの方の愛を受け容れられない自分があの方のためにできるたった一つのことは―。
誠恵はつと視線を動かした。その先には、あどけない笑みを浮かべた王子がいる。誠恵を信じ切っている、安堵しきった表情。
ふいに、その整った貌に領議政孫尚善の顔が重なった。こうしてよくよく見ると、世子は外祖父によく似ている。最初の頃は光宗に生き写しだと思っていたものだけれど、血とは不思議なものだ。見方によっては光宗にも似ているし、領議政にも似ている。
自分の人生を滅茶苦茶にし、狂わせた憎い男、孫尚善。この幼い王子は紛れもなく、あの男の血を引く孫なのだ。
誠恵は一歩、世子に近づく。一歩、また、一歩と微笑みさえ浮かべて世子に近づいた。
―憎い孫尚善の血を引く王子など、死んでしまえば良い。
誠恵の両手が王子の細い首にかかる。きりきりと力を込めて締め上げながら、誠恵は涙を流した。
王子はしばらくもがいていたが、直にくったりと力を失い、動かなくなった。
お許し下さい、邸下。
誠徳君と出逢ってからの想い出の数々が甦る。笑顔、泣き顔、様々な表情が光の粒子のようにきらめきながら、脳裡を駆けめぐった。
―たとえ一緒に遊ぶ兄弟がおらずとも、そなたを姉のように思い慕うておるゆえ、淋しくはない。
見上げてそう言ったときの愛くるしい笑顔が唐突に甦り、胸が苦しくなった。
