
闇に咲く花~王を愛した少年~
第4章 露見
薔薇のかたちに彫り込んだのは、森の深い緑を彷彿とさせる石である。可憐な少女、時には妖艶な女の顔を見せながら、時として少年のような清々しさをも感じさせる彼女に相応しい色だと思って、この石を選んだ。
〝緑花〟という名も丁度、あつらえたようにぴったりに思え、出来上がってきた玉牌と簪を大殿で一人で眺めては、悦に入っていた。
それを傍らで見ていた柳内官には
―殿下、畏れながら、お顔が完全に崩れております。巷では、そのように女人のことばかりを考えて浮ついている好色な男を〝にやけている〟と形容するそうにございます。
などと、他の者なら不敬罪で首を刎ねてやりたいようなことを平然と言われた。
同じ石でやはり薔薇を彫り込ませ、玉牌とお揃いの簪も作らせたから、たとえ無駄になったとしても、渡すだけは渡したかった。
もしかしたら、もう自分のような男に愛想を尽かした緑花は受け取ってはくれないかもしれないが。
趙尚宮はすぐに緑花の居室に女官を呼びにやらせたが、部屋はもぬけの殻であった。念のため、心当たりを趙尚宮が方々探させたものの、結局、見つからず、恐縮する趙尚宮に見送られ大殿に戻る途中に、ふと人影に気付いて脚を止めたのだった。
そして、その場所がかつて緑花と世子が愉しげに遊んでいたところであったことを思い出した。そのときは、むろん、緑花が世子の相手をしてやっているのだとばかり思った。
だが、どうも様子が妙だ。緑花がいつになく思いつめたような眼で世子を見つめている。利発とはいえ、幼い世子は緑花の異常さには気付いていないようだ。
声をかけるのもはばかられる緊迫した雰囲気と危うさが二人を取り巻いていた。光宗は物陰から、しばらく二人を見守っていた。
と、突如として、緑花が世子の首に手をかけたのである。
咄嗟に二人の前に駆けてゆこうとした光宗は、思いどおりに動こうとせぬ身体が歯がゆかった。一度は世子から手を放した緑花だったが、ややあって、再び世子に近づいたのを見たときは、これはもう駄目だと思った。
漸く、このまま見ていてはやはり危険すぎると一歩踏み出しかけたまさにその時、緑花が突如として世子から離れた。
緑花は逃げるように、気絶した世子一人を残して走り去った。
光宗は慌てて倒れた世子に駆け寄り、脈や息遣いを確かめ、世子が無事であることを確認した。
〝緑花〟という名も丁度、あつらえたようにぴったりに思え、出来上がってきた玉牌と簪を大殿で一人で眺めては、悦に入っていた。
それを傍らで見ていた柳内官には
―殿下、畏れながら、お顔が完全に崩れております。巷では、そのように女人のことばかりを考えて浮ついている好色な男を〝にやけている〟と形容するそうにございます。
などと、他の者なら不敬罪で首を刎ねてやりたいようなことを平然と言われた。
同じ石でやはり薔薇を彫り込ませ、玉牌とお揃いの簪も作らせたから、たとえ無駄になったとしても、渡すだけは渡したかった。
もしかしたら、もう自分のような男に愛想を尽かした緑花は受け取ってはくれないかもしれないが。
趙尚宮はすぐに緑花の居室に女官を呼びにやらせたが、部屋はもぬけの殻であった。念のため、心当たりを趙尚宮が方々探させたものの、結局、見つからず、恐縮する趙尚宮に見送られ大殿に戻る途中に、ふと人影に気付いて脚を止めたのだった。
そして、その場所がかつて緑花と世子が愉しげに遊んでいたところであったことを思い出した。そのときは、むろん、緑花が世子の相手をしてやっているのだとばかり思った。
だが、どうも様子が妙だ。緑花がいつになく思いつめたような眼で世子を見つめている。利発とはいえ、幼い世子は緑花の異常さには気付いていないようだ。
声をかけるのもはばかられる緊迫した雰囲気と危うさが二人を取り巻いていた。光宗は物陰から、しばらく二人を見守っていた。
と、突如として、緑花が世子の首に手をかけたのである。
咄嗟に二人の前に駆けてゆこうとした光宗は、思いどおりに動こうとせぬ身体が歯がゆかった。一度は世子から手を放した緑花だったが、ややあって、再び世子に近づいたのを見たときは、これはもう駄目だと思った。
漸く、このまま見ていてはやはり危険すぎると一歩踏み出しかけたまさにその時、緑花が突如として世子から離れた。
緑花は逃げるように、気絶した世子一人を残して走り去った。
光宗は慌てて倒れた世子に駆け寄り、脈や息遣いを確かめ、世子が無事であることを確認した。
