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闇に咲く花~王を愛した少年~

第4章 露見

 領議政が恐らく、国王光宗を暗殺せよと命じたのは間違いない。世子の外祖父であり、先王の中殿、今は大妃となっている孫氏の父領議政にとって、最も目障りなのが国王だからだ。
 仮に永宗が若くして崩御しなければ、何の問題もなかった。永宗の後はその嫡流の王子誠徳君が継ぐはずだった。しかし、永宗の崩御によって、領議政の深遠な野望は阻まれたかに見えた。永宗の崩御時、誠徳君はまだ二歳にすぎず、朝廷の大臣の大半は永宗の同母弟慎徳君に次期王位継承を願った。時に十四歳の慎徳君がその声に推されて即位、光宗となった。
 光宗―彼自身は考えても望んでもいなかったことだった。光宗の即位後二年を経て大王大妃の垂簾の政が終わり、漸く親政が始まった。自ら政務を執るようになった直後、光宗は亡き兄の忘れ形見であり、先王の遺児誠徳君を自ら世子に冊封した。先王の遺児を世子ら立てたことで、領議政初め朝廷に
―朕(わたし)には我が血を分けた子に次の王位を譲るつもりはない。
 と、宣言し、意思表示を明確にしたつもりだった。
 が、猜疑心の強い領議政がそれだけで納得するとは思えず、周囲の勧めも無視し、中殿はおろか側室さえ迎えずに通してきたのだ。
 妻妾がなければ、子が生まれることもない。子がいなければ、領議政が要らぬ勘繰りをする必要もないだろうと、そこまで考えてのことだった。
 しかし、それでもなお、領議政は完全なる安泰を望んだのだ。自分(光宗)が生きている限り、あの野心の塊のような男は夜も安心して眠れぬのだろう。自分もそろそろ老齢に達し、眼の黒い中に孫である世子の地位を盤石のものにしておきたいと考えたとしても、いささかの不思議もない。
 いかにも、あの腹黒い狸の考えそうなことだ。
 国王暗殺、その任務を帯びて送り込まれてきたのが張緑花であり、愚かで哀れな自分はまんまとその美しき罠にかかった。
 多分、領議政は緑花の魅力で自分を骨抜きにし、意のままに操ろうと目論んだに相違ない。その上で、女の色香に眼が眩んだ国王を緑花に殺させる。
 光宗は、しかしながら、領議政の仕掛けた美しい罠にはまった我が身をいささかも不幸だとは思わない。むしろ、緑花という少女に引き合わせてくれた領議政に感謝したいくらいだ。

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