
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
領議政がどれほど腹黒い男であろうと、幼い誠徳君には何の罪もないというのに。
それでも、まだ世子は自分を殺そうとした誠恵を庇い口をつぐんでいる。
たとえ何を棄てても、自分が信じるもの、最も大切なものは守らねばならない、たとえ生命を賭けても。
世子の勇気ある行動は、誠恵の心を衝いた。
誠恵は七歳の幼い王子に大切な何かを教えられたような気がした。
光宗とは、ずっと話どころか、顔さえ合わせていない。光宗に乱暴な扱いを受けて気まずくなっていたところに、更に世子暗殺の事件が重なり、到底、話ができる状態ではない。
光宗は世子を実の子のように可愛がっているのだ。世子に顔向けできないのと同じように、光宗にもまた、どんな顔をして逢えば良いのか判らなかった。
光宗に手籠めにされかけたことは、今でも心の傷として残ってはいるけれど、だからといって嫌いになどなれるわけがない。
趙尚宮の言うように、光宗の自分への気持ちを疑ったことはなかった。男の気持ちをあそこまで追いつめ、中途半端な態度を取り続けた自分がすべて悪いのだ。そのことで光宗を恨むはずがない。そう、今でも誠恵は光宗を心から愛している。
これから先、自分たちがどうなってゆくのかは判らないが、とりあえずは領議政孫尚善の出方が気になった。
月華楼の女将が後宮女官と拘わりがあってはまずい。誠恵は落ちぶれた貧しい両班家の娘ということになっている。一つには後宮に女官として上がるには身許調査が行われ、氏素性の確かな娘ではないといけない。
また女将が領議政の異母弟であると万が一知れ、そこから領議政と誠恵の拘わりが露見するのを避けるためでもあった。ゆえに、月華楼との繋がりはひた隠しているのだ。
〝張緑花〟は月華楼に帰るのではなく、実家(さと)方(かた)の屋敷に戻ることになった。趙尚宮は、母が体調を崩して寝込んでいる―という理由を怪しむこともなく、快く出宮を許可したばかりか、お見舞いと称して干し杏子を籠一杯に持たせてくれた。
外出用の外套を頭からすっぽりと被り、誠恵は宮殿を出た。女官のお仕着せから、淡いピンクのチョゴリと蒼色のチマに着替えている。
それでも、まだ世子は自分を殺そうとした誠恵を庇い口をつぐんでいる。
たとえ何を棄てても、自分が信じるもの、最も大切なものは守らねばならない、たとえ生命を賭けても。
世子の勇気ある行動は、誠恵の心を衝いた。
誠恵は七歳の幼い王子に大切な何かを教えられたような気がした。
光宗とは、ずっと話どころか、顔さえ合わせていない。光宗に乱暴な扱いを受けて気まずくなっていたところに、更に世子暗殺の事件が重なり、到底、話ができる状態ではない。
光宗は世子を実の子のように可愛がっているのだ。世子に顔向けできないのと同じように、光宗にもまた、どんな顔をして逢えば良いのか判らなかった。
光宗に手籠めにされかけたことは、今でも心の傷として残ってはいるけれど、だからといって嫌いになどなれるわけがない。
趙尚宮の言うように、光宗の自分への気持ちを疑ったことはなかった。男の気持ちをあそこまで追いつめ、中途半端な態度を取り続けた自分がすべて悪いのだ。そのことで光宗を恨むはずがない。そう、今でも誠恵は光宗を心から愛している。
これから先、自分たちがどうなってゆくのかは判らないが、とりあえずは領議政孫尚善の出方が気になった。
月華楼の女将が後宮女官と拘わりがあってはまずい。誠恵は落ちぶれた貧しい両班家の娘ということになっている。一つには後宮に女官として上がるには身許調査が行われ、氏素性の確かな娘ではないといけない。
また女将が領議政の異母弟であると万が一知れ、そこから領議政と誠恵の拘わりが露見するのを避けるためでもあった。ゆえに、月華楼との繋がりはひた隠しているのだ。
〝張緑花〟は月華楼に帰るのではなく、実家(さと)方(かた)の屋敷に戻ることになった。趙尚宮は、母が体調を崩して寝込んでいる―という理由を怪しむこともなく、快く出宮を許可したばかりか、お見舞いと称して干し杏子を籠一杯に持たせてくれた。
外出用の外套を頭からすっぽりと被り、誠恵は宮殿を出た。女官のお仕着せから、淡いピンクのチョゴリと蒼色のチマに着替えている。
