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my destiny

第5章 風の中のキャンドル

【智side】

何だか、何もかも、空っぽな感じだなぁ…。

ああ、そう言えば。
映画のプロモーションが一段落した頃から、こんな感じはあったかも。

と思い出す。

食べても味がしないような。

笑っていても、どこか、付き合いで笑ってるだけみたいな。


「人間とは不思議なものだ
本当に危機的な状況の時には感情を脇に除けてしまう

まず先に対処することを優先する
危機が去ってから苦しみや悲しみを実感する」

「よく聞くでしょう
例えば旦那さんが亡くなったりした場合に
周りが感心する程、気丈に振舞っていた奥さんが
一切が落ちついた頃になってストレス性の病気を発病するとか」


神様とエンケンさんが交互に喋るのを、ぼんやり聞いていた。


「そんなら俺も、何かの病気で死ぬの?」


別にどうでもいいや、と思いながら、自分のことじゃないみたいに訊いてみる。

なんだか、二人に八つ当たりをしているみたいだ。


「今は未だ、表面には表れていない」

「えっ?」


オイラは、びっくりして思わず神様を見た。

てっきり、そんなことはない、頑張って生きるんだ、とかって言われるのかと思ったから。


「我々は、君の感情を共有してる
適当な励ましや、空々しい正論は言わんよ
君が一番良い選択をするようサポートするだけだ
君が決めることを止める権利はない
決めるのは君だ」


神様は、大きく溜息を吐くと、校長先生みたいに両腕を後ろに回して、辛そうに唇を噛んだ。


「生きてく上では欲が必要なんです
命の、生きようとする欲です

貴方はこれまで他人の望みばかり優先してきた
だから命が枯れかかっています

自分の心からの、本当の望みを見つけてください
まだ間に合います」


エンケンさんが泣きながら言う。


「自分の為の歌を歌えるようにならないと
本当に他人の為になる歌は歌えないよ
君が一番好きな人のことを思い出してごらん」


神様が諭すように言った。



いちばん、すきなひと…。



また、びゅぅっ、って、風が吹いた。








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