my destiny
第5章 風の中のキャンドル
【翔side】
あの日、智君は、帰りのタクシーの中で声も出さずに静かに泣いていたから、俺はひどく気を揉んだのだけれど。
最近の出来事を思い返してみても、貴方にも、俺たち2人にも、5人にも、特に何かの問題が起きているとは思えなかった。
順調過ぎるくらいだ。
智君は、俺の膝の上に頭を載せたまま、家に着く前に眠ってしまって。
車を降りてから部屋に入るまでの間も自分の足で歩いたけれども朦朧としていた。
涙の理由を訊くよりも先に、まず休ませた方が良いと判断して直ぐにベッドへ入れた。
俺は、何か見落としていないか?
眉根を寄せて眠る顔を眺めながら、心配で自分に問いかける。
胎児のように体を丸めて眠っている貴方を、無理に引き寄せることも出来ず、背中から体を包むように寄り添って寝た。
昔から、この人は自分の中にいろんな気持ちを抱え込んで、全部受け止めようとする。
大丈夫だ、って笑って、なんだよ?ってとぼけて、独りぼっちになろうとする。
眠る姿が、まるでケガを負った野良猫のようだ。
暗がりで体を丸めて、餌も食べずにひっそりと傷の痛みをやり過ごすみたいで。
理解したいと差し伸べる俺の手から、貴方はいつも目を逸らす。
翌朝、一緒に起きた時には、もう、いつもの貴方に戻っているように見えた。
一緒にコーヒーを飲みながらも、貴方のことが気になって、俺が様子を窺っているのに気づいて、
「翔君、昨日はごめん
なんか、ちょっと疲れてたみたい
もう平気だから」
貴方の方から口に出す。
「ちゃんと病院に行くよね?」
「ん~…行かなくてもさ…
もう熱もないし吐き気もしないし」
「…………」
上から指示すると反発されるから、黙ってじっと見つめて目で訴えたら、諦めたように承諾した。
「…行くよ…
もう治ったのに、医者に何て言えばいいの?
せっかくオイラ休みなんだけどな…」
いかにも渋々と、アヒル口になってブツブツ文句を言っていたのを憶えている。
あの日、智君は、帰りのタクシーの中で声も出さずに静かに泣いていたから、俺はひどく気を揉んだのだけれど。
最近の出来事を思い返してみても、貴方にも、俺たち2人にも、5人にも、特に何かの問題が起きているとは思えなかった。
順調過ぎるくらいだ。
智君は、俺の膝の上に頭を載せたまま、家に着く前に眠ってしまって。
車を降りてから部屋に入るまでの間も自分の足で歩いたけれども朦朧としていた。
涙の理由を訊くよりも先に、まず休ませた方が良いと判断して直ぐにベッドへ入れた。
俺は、何か見落としていないか?
眉根を寄せて眠る顔を眺めながら、心配で自分に問いかける。
胎児のように体を丸めて眠っている貴方を、無理に引き寄せることも出来ず、背中から体を包むように寄り添って寝た。
昔から、この人は自分の中にいろんな気持ちを抱え込んで、全部受け止めようとする。
大丈夫だ、って笑って、なんだよ?ってとぼけて、独りぼっちになろうとする。
眠る姿が、まるでケガを負った野良猫のようだ。
暗がりで体を丸めて、餌も食べずにひっそりと傷の痛みをやり過ごすみたいで。
理解したいと差し伸べる俺の手から、貴方はいつも目を逸らす。
翌朝、一緒に起きた時には、もう、いつもの貴方に戻っているように見えた。
一緒にコーヒーを飲みながらも、貴方のことが気になって、俺が様子を窺っているのに気づいて、
「翔君、昨日はごめん
なんか、ちょっと疲れてたみたい
もう平気だから」
貴方の方から口に出す。
「ちゃんと病院に行くよね?」
「ん~…行かなくてもさ…
もう熱もないし吐き気もしないし」
「…………」
上から指示すると反発されるから、黙ってじっと見つめて目で訴えたら、諦めたように承諾した。
「…行くよ…
もう治ったのに、医者に何て言えばいいの?
せっかくオイラ休みなんだけどな…」
いかにも渋々と、アヒル口になってブツブツ文句を言っていたのを憶えている。