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my destiny

第5章 風の中のキャンドル

【翔side】

後からどうだったのか訊いてみたら、実際、病院へ行っても何か診断が下るということもなく、胃の頓服を処方されただけだったそうだ。

それでも、念の為、ということでマネージャーが強く要望して、血液検査はしてもらったらしい。



あの朝、体調のこともあったけれど、気になっていたのはむしろ智君に何か屈託があるんじゃないか、ってことの方だった。

何度か、訊き出そうとしてみたが、結局、はぐらかされて終わってしまった。

それでも振り返ってみれば、この時から、貴方は弱り始めたんだと思う。

後日出た血液検査の結果を俺も見せてもらったけれど、精密検査を要するような項目はなかった。

だから、病気ではない。

ただ、日に日に影が薄くなっていくと言うか…。



ほわんとしている人だから、他人の目にはこれまでと何も違わないのかもしれない。

何がどうした、とハッキリ説明できない感覚の話になってしまうけれど、儚くなっていくような気がして仕方ない。

百合とかカラーとか、厚みのあるしっかりした花が、見た目には傷んでいる様子もないまま、いつまでも姿を保って見えるのに似ている。

ある時、気がついて茎に触れると、すっかり張りがなくなっていて、頼りなく衰えていることに気づく。

何か、元気がないな、と思っているうちに日が過ぎた。

貴方の心が止まってしまっていることに、気づけないまま。







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