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明日への扉 ~~ 伝えたい気持ち

第3章 翌々日 ――


 代表取締役社長  各務 柊二


 何度見返しても名刺にはその名前が印字されている。

 まさか ―― 嘘でしょ?!

 ……知っている。
 私はこの人知っているぞ。
 
 いや、直接面識があるワケではないが。

 以前、インフルでダウンした先輩の代わりに
 重役専用フロアーの廊下をモップがけしてた時、
 社長室から出てエレベーターへ乗り込んだ彼を
 見かけた事がある。
 
 あの時、社長さんが乗ったエレベーターから
 彼がつけてるシトラス系のボディースプレーの
 香りがほんわか漂ってきて、

 ”あぁ、イケメンってつけてる匂いまで
  爽やかなんだぁ”なんて、思った事を

 今でも覚えている……。
 
  
 ジャケットを羽織った彼は荷物をまとめ、
 立ち上がる。
 
 私もテーブルの上に名刺を置き、
 慌てて立ち上がった。


「本当にどうもありがとう」

「いえいえ」

「たまたま今日は休日出勤だけど、いつもの週末は
 休みだから連絡待ってますね」


 すっかり本調子になったのか彼 ――
 各務社長は爽やかな笑顔でそう言った。

 ただの社交辞令だったとしても嬉しい。

 私はぎこちなく微笑みながら『お気をつけて』と
 各務社長を送り出した。

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