
明日への扉 ~~ 伝えたい気持ち
第4章 バイト先・其の壱
利沙の話を聞いて、ある社員さんの事を思い出した。
その人はとても優秀な幹部候補生で、
地方支社での研修を経て本社秘書課に配属された
にも関わらず、たった1年でギブアップ。
会社を辞めてしまったのだ。
先に着いたエレベーターは階下行きだったので
私は先にエレベーターへ乗り込んだ。
地下2階の控室に向かう道すがら利沙との会話を
思い返していた。
2年前に就任した各務社長はとにかく厳しい。
残酷で恐ろしい人だ ――
私の属する”ヒロセクリーンサービス”他
2社の清掃会社スタッフが詰める控室は
コスモ企画の若手社員さん達が集う ”たまり場”
みたいになっていて。
新入社員研修で各務社長の手厳しさを
目の当たりにした社員さんから度々そんな話を
聞いていた。
でも皆さんが語っていた各務社長の姿と
木曜日の夕方に祠堂学院で見た男性の姿は、
どうやったって結びつかない。
あのどこにでもいるような男性がグループ内で
”仕事の鬼”だと比喩されている人と
同一人物だなんて、とても信じられなかった。
私があの日、出逢ったあの男性は、
偶然にも鬼社長と同姓同名の別の人だった
――そう考えた方がしっくりくるような
気がしていた。
