sweet poison【BL】
第1章 茜陽一の仕事
複雑な表情で声をかけてきたのは、父と共にこの工場を立ち上げた水野という五十を過ぎた男性だ。
元々この土地に住んでいたのが彼で、この土地の為に何かしたいと父に話をもちかけた。
父と水野は高校・大学と同じ学校に通っていて、親友だった。
父は有名な会社で営業をしていた為、水野は相談をしたのだ。
そこでできたのがこの工場だった。
何とか仕事が軌道に乗った時、彼は父と同じ歳だったのにも関わらず、その地位を陽一に譲り渡してしまった。
陽一の方が才能があり、そして自分には茜父子に借りがあるからと、きっぱり下がってしまったのだ。
最初は戸惑いながらも、会社勤めは続けてくれるので、父も渋々了承した。
今でも工場を影から支えてくれている彼は、いつも冷静に物事に対処する。
だが今は、どことなく不安が滲み出ていた。
陽一と水野は空いている会議室へやって来た。
「どうしたんですか? 水野さん。何だか顔色が悪い気がしますけど…」
「…ええ、実はちょっと社長に相談しようか迷っている話がありまして」
水野は持ってきた茶封筒の袋の中から書類を取り出し、陽一に渡した。
書類にざっと眼を通すと、この工場の商品を店で売ってみないかとの内容だった。
「出店のお話ですか?」
「ええ。ところがあんまりにも話が旨過ぎる気がしましてね。もしかしたら詐欺なのかと…」
「ええっ!」
「だって見てくださいよ」
水野は訝しげに、陽一の持つ書類を捲った。
「出費は全てあちら持ち。他の出費も領収書さえあれば向こうが出すと契約書にあります」
「あっ、本当だ」
書類の一番最後は、仮契約書のコピーだった。
「そして一番わたしが怪しいと感じたのは、店の場所です」
「いつもの駅やデパートなどではなく?」
「はい。一つの店として、出してくれるそうです」
水野の言葉に、陽一は動きを止めた。
「店、を? 店って、駅やデパートの一画にある店舗ですか?」
「いえ、この工場の商品を取り扱った一つの店です。彼等が提示しているのは、東京に建物を造り、そこをまるまるウチの店にしたいとのことです」
元々この土地に住んでいたのが彼で、この土地の為に何かしたいと父に話をもちかけた。
父と水野は高校・大学と同じ学校に通っていて、親友だった。
父は有名な会社で営業をしていた為、水野は相談をしたのだ。
そこでできたのがこの工場だった。
何とか仕事が軌道に乗った時、彼は父と同じ歳だったのにも関わらず、その地位を陽一に譲り渡してしまった。
陽一の方が才能があり、そして自分には茜父子に借りがあるからと、きっぱり下がってしまったのだ。
最初は戸惑いながらも、会社勤めは続けてくれるので、父も渋々了承した。
今でも工場を影から支えてくれている彼は、いつも冷静に物事に対処する。
だが今は、どことなく不安が滲み出ていた。
陽一と水野は空いている会議室へやって来た。
「どうしたんですか? 水野さん。何だか顔色が悪い気がしますけど…」
「…ええ、実はちょっと社長に相談しようか迷っている話がありまして」
水野は持ってきた茶封筒の袋の中から書類を取り出し、陽一に渡した。
書類にざっと眼を通すと、この工場の商品を店で売ってみないかとの内容だった。
「出店のお話ですか?」
「ええ。ところがあんまりにも話が旨過ぎる気がしましてね。もしかしたら詐欺なのかと…」
「ええっ!」
「だって見てくださいよ」
水野は訝しげに、陽一の持つ書類を捲った。
「出費は全てあちら持ち。他の出費も領収書さえあれば向こうが出すと契約書にあります」
「あっ、本当だ」
書類の一番最後は、仮契約書のコピーだった。
「そして一番わたしが怪しいと感じたのは、店の場所です」
「いつもの駅やデパートなどではなく?」
「はい。一つの店として、出してくれるそうです」
水野の言葉に、陽一は動きを止めた。
「店、を? 店って、駅やデパートの一画にある店舗ですか?」
「いえ、この工場の商品を取り扱った一つの店です。彼等が提示しているのは、東京に建物を造り、そこをまるまるウチの店にしたいとのことです」