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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第9章 未来なんて不確かなものを見る


***

「お疲れ。珈琲だけどブラック大丈夫?」

「あ、好きです。ありがとうございます…」

またテンション爆上がりの東郷さんとの撮影が終わりモニター近くに置かれたパイプ椅子に腰掛けると、柊木さんにテイクアウトの珈琲を頂いた。

……温かいものが喉を通っていく。

「おいし、」

珈琲でひと息ついた俺を見て柊木さんが目を輝かせる。

「君はそんな風にも笑うんだね」

「何か変ですか?」

「いや、素直な表情が見られて嬉しいよ」

それから暫く沈黙が続く。
ここで聞きたいことを聞いてしまっていいのか?

迷ってチラチラと柊木さんの方を窺っていると、何か思い出したように柊木さんは微笑む。

そして口を開いた。

「君のお母さん__ことりと初めて会った時、彼女は今の君そっくりの目をしていてね。どこか虚ろでただ温かさがある、人を惹き付ける目。君たちは本当に良く似ている」

「俺と母に血の繋がりは・・・」

「そんなことは百も承知さ。一緒にいると似てくるんだよ。仕草や表情が似ると不思議と顔が似る」

「初めて言われました。母に似てるって」

それがとてつもなく、嬉しい。

「それからきっと2人とも何か大きな物を抱えているようだから、余計に似るんだろうね」

そんなことまで分かってしまうのか。

「この世界で生き残るにはそういうのが必要だ。だから君はきっと芸能界で名を残せるよ」

「…そういうのする気ないです。人前とか苦手なので」

カメラの前が精一杯。これで誰かの前に立つなんて俺には到底出来ない。それに俺が芸能界に入ったところで、親の七光りだと言われて終わりだ。

「明日が終われば、君は別人だろうな。その時に改めて聞いていいかい。この世界に入る気はないか?と」

そんな急に考えが変わることなんて。

「いいですよ、答えはたぶん変わりませんが」

明日に何が待っていると言うのだろう。

少しの恐怖と大きな高揚感を抱きながら、この日は解散となった。


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