兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第14章 主人公になりたい
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撮影が予定より早く終わったからスーパーに寄ってから帰ろうといつもと違う道へ進んだ。
ここの路地裏、久しぶりだな。
・・・よく学校からの近道で通ったっけ。
「…あれ、方来くん?」
「!」
名前を呼ばれて反射的に振り返る。
「あ…っ」
「ひ、さしぶりだね」
それはあの時の彼女だった。名前は知らない、だけど絶対に忘れたことの無い彼女。
手が震えて、やけに冷たい汗が熱くなった背中を伝った。言葉など出るはずもない。
「あのね、私…あの時は本当にごめんなさい」
「…っぅ」
張り付いた喉が小さく音を出す。
「お、れの方こそ…目の前で吐いたりして、ごめん」
言えた。
ずっと心の奥で引っかかっていたことだった。
「…急に変なこと私が言ったから、だよね。あれからちゃんと考えたの。それで、本当に謝りたくて、でも、学校来てないってクラスの子が…私の所為で…」
「ち、ちがう。あれは、俺が自分で乗り越えなきゃいけないことがあって、あなたはそのトラウマっていうか、それの、引き金だっただけだから、」
ああ、引き金とかトラウマとか余計なことばかり言ってしまう。そうじゃないんだ。そういうことが言いたいんじゃ、ない。
「とにかく、あなたは悪くない!俺が全部悪かった、吐いたこと本当にごめん!それから、もう気にしないで。たくさん考えてくれたみたいだから…」
自分の所為で、なんてそんなの考えないで。
俺はこの子のことを何も知らないけど、そんな苦しいものを背負ってほしくない。
「…ありがとう、方来くん。もうこのまま謝れないままかと思ってた。今日会えて、良かった」
ずっと強ばっていた彼女の顔がふわっとほぐれて、それと同時に俺の表情筋も力が抜けた。
身体の柔らかいそのまた奥に溜まった塊がすーっと溶けていく感覚がして、やっと地面に自分の足で立てたようだった。
「それじゃ、私これで…」
「あっ待って」
これでやっと前に進んでいける。
「名前、教えてくれる?」