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徒然に。

第17章 KLEIN kino

暖かい体温から緩やかに上下する胸元に合わせて呼吸が落ち着いたのを感じて髪を触る手を止めた。肩が冷えないように上掛けをかけ直す。
うっかりするとこの人の体温に引きずられておれも寝ちゃうから、自分の肩は出したまま。
顔をマジマジと見ると薬が効いたから眉間にシワの無い見慣れた穏やかな寝顔。
男性としては年下感まんさいな顔なのに、なんでこの人は年上の威厳がないかなぁ?
と、いつもの疑問が浮かぶ。

ふいに思うのはあの日、自分の事なかれな態度に心底嫌気がさした日を思う。

今では事情も理解出来るし対処も解るし慌てることもないが。
あの日は地獄並みな日々だったっけ?
痛みがどれほどか、理解が出来ないものであり薬に長けたこの国で対処が出来ないなんてこともないけど、あの日のこの人の症状は尋常ではなかった。なんて、今だから心の処理も簡単だ。
薬を飲んでも効かない痛みにのたうち回り、どれだけの量を制限かけても半日で飲み干してしまう。
「それでも効かない」と、この人はまかり間違えば劇薬にも手を出しかけた、あの日。
棚を見ても魔法を解いた形跡は見受けられない。
どれだけおれがホッとしてるか、たぶん、この人もう気づいてる。

「……………良かった。………………良かったね?」

あんな泣き方をシゲとケイがしたのはもう見ないし見たくないし、この人が穏やかに寝れてるのもまだ見たいんだよね?
誰も気づかなかった訳じゃない。でもこの人笑うんだよね?「今日は効かない日だ」って。「もうちょっと強いの混ぜといて?」って。
それをあの笑顔で云われたらさ、主治医でなくても騙されるんだよ。事実騙された。
通常の五倍でももうあの時には効かない状態になってた。
「それでも効かない」と、劇薬に手を出しかけた。

「まかり間違えば神経切断するしかなくなるくらいの強さのを手に取りかけた」

本当かどうかはおいといて。
薬に長けてる国だけどおれはあんまり薬を飲む方じゃないから一般知識とさほど変わらない。
そういう表現をしないと解らないってだけで。
泣いたよね?
泣かないと解んなかったから。あの日は。
「棚に薬置いとくけど無理やり開けたらおれが怪我するからね?!」
泣きながら言ってみた。
今ではこの人の薬が効かない状態は解消されたけど、いつまたおんなじことになるか、気が気じゃなかったな。
走って帰って確認するのが癖になってた。

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