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桜華楼物語

第6章 小袖

久しぶりに彼が部屋に上がった。

逢いたかったと言い合いながら、二人で何度も昇り詰めては快感を分け合って。

胸にすがりながら横たわってると、彼は私の髪を撫でながら。
「あのなあ…上方の元締めからいい出物があるって話が来たんだよ。お前には江戸で…と言ったが、別に江戸に拘ることも無いんじゃないかと思ってきてな。…どう思う?」

頭を上げて顔を見上げると口を開いて。
「私は…あんたと一緒ならどこでもいいの。ここに来るまでの暮らしにいい思い出なんてありゃしない…。上方でもどこでも構わない…」

「そうかい、そりゃ嬉しいな。勿論、今すぐにどうこうじゃないんだ。ただ、多少の手付けを打っておかないとならない。そうなるとお前の身請け金までは…また少し待ってもらわなきゃいけない。それでも、いいか?」

私はしがみつくように、離れないように強く抱きつくとはっきりと言った。
「どれだけだって待ってるから…」

心の中が暖かいもので満ちていく。

もっと一杯にするには…
取り除かないといけないものがある…

彼の寝息が聞こえる頃…
うつらうつらした私の耳に天井から微かな物音が聞こえた。

ああ…また鼠が出て来たんだねえ…
「猫いらず」を撒いておかないと…

暗い天井に、兄の薄ら笑いが浮かんだ。

あれは、鼠以下だ…

「猫いらず」 多めに貰わないと……


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