
桜華楼物語
第7章 紅
その男は長年に渡り各地を転々としながら、金の匂いを嗅ぎつけては立ち回る…いわゆる山師。
久方ぶりに江戸に舞い戻ったらしく。
「ここは変わらねえなあ。やっぱり江戸の女が一番性に合うってもんだ」
既に初老に近いというのに、精力には事欠かないらしく。
吉原内の様々な店を訪れては、暫くの間居座っていたのだ。
そして、桜華楼に。
あれにする、と選んだ女が紅であった。
紅の母親は、当時桜華楼で一番の遊女。
その面影を宿す紅も、すこぶる評判が良い。
男はすっかり紅が気に入り、離さなかった。
自身番から奉行所に移された紅は、役人の吟味を受けている。
何故、刺したのだ。
そう問う役人に対して、紅は淡々と言葉を吐く。
「散々私を離さずに玩具にしておいて。ちょっと簪をねだったら…あの男は私を酷い言葉でなじったんですよ。たかが遊女だけど、胸張って生きてるんだ。あんまり頭に来て…つい…ね。ほんとに、嫌な野郎でしたよ…」
紅の言葉は役人によって記録されて、沙汰待ちの為に牢の中に。
楼主は雇い主として呼び出されて。
役人から紅の供述の些細を告げられた。
紅の気立ては良くわかっている。
果たして、それは…ほんとの言葉だろうか。
楼主は確信が持てぬままに帰ってきた。
包丁を突き立てられ、もんどり打つ男の表情を思い出して…何かもやもやとした感情に。
まるで喉元に魚骨が引っかかってるような。
そんなもどかしさは、一体…。
久方ぶりに江戸に舞い戻ったらしく。
「ここは変わらねえなあ。やっぱり江戸の女が一番性に合うってもんだ」
既に初老に近いというのに、精力には事欠かないらしく。
吉原内の様々な店を訪れては、暫くの間居座っていたのだ。
そして、桜華楼に。
あれにする、と選んだ女が紅であった。
紅の母親は、当時桜華楼で一番の遊女。
その面影を宿す紅も、すこぶる評判が良い。
男はすっかり紅が気に入り、離さなかった。
自身番から奉行所に移された紅は、役人の吟味を受けている。
何故、刺したのだ。
そう問う役人に対して、紅は淡々と言葉を吐く。
「散々私を離さずに玩具にしておいて。ちょっと簪をねだったら…あの男は私を酷い言葉でなじったんですよ。たかが遊女だけど、胸張って生きてるんだ。あんまり頭に来て…つい…ね。ほんとに、嫌な野郎でしたよ…」
紅の言葉は役人によって記録されて、沙汰待ちの為に牢の中に。
楼主は雇い主として呼び出されて。
役人から紅の供述の些細を告げられた。
紅の気立ては良くわかっている。
果たして、それは…ほんとの言葉だろうか。
楼主は確信が持てぬままに帰ってきた。
包丁を突き立てられ、もんどり打つ男の表情を思い出して…何かもやもやとした感情に。
まるで喉元に魚骨が引っかかってるような。
そんなもどかしさは、一体…。
