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桜華楼物語

第9章 朝霧

もう盆は過ぎたっていうのに…
まだまだ蒸し暑い夜だこと…

…何かお話を…?
寝物語ってことですかねえ。
私なんかの話で良ければ、お話しましょうか…

私ね、こんな商売してますけど…
立派なお嬢様だったんですよ。んふふ…
私の家は…まあそれなりに大きな商いをしていましてね。
私はそこの跡取り娘で。
そりゃあもう、大事にされたもんですよ。

でも当の私ときたら、そりゃあもう…お転婆娘でございましてね。
お茶やお花のお稽古をさぼっては、近所の男の子達と遊び呆けてるような有様で。

大事にされてるとはいえ、流石に叱られましてね。
いい年頃になって、行儀見習いに出されるんですよ、ええ…。

商いで懇意にしていた大層な武家のお屋敷。
親としてみれば、少しはお嬢らしく大人しくなればと思ったんでしょうね。
で…万が一でも、その武家のどなたかに見初められれば…
なんて、都合の良い事を考えていたんじゃないかと。

でもねえ、世の中そんな上手く行きゃしません。
そうでしょう…?
この前まで、男の子達と飛んだり跳ねたりしてたんですからねえ。
ただね、私って…こう、黙ってるとそれなりに良い器量の女って…自分で言うのもあれですけど…

そんなんで、それなりに静かにしてると…男が近付いてくるようになってねえ…

いや、ほんとですよ。
そんな笑わないでくださいな…

そこの武家に出入りしてる商売人や侍やね。
私がお茶なんか出したりすると、視線を感じたりしてねえ。んふふ…

で、ある時に…庭の普請で出入りしてた大工の男に声を掛けられて…
まあ、大工だから浅黒くてまあまあ逞しくてねえ。
ちょっといい人そうだったんで…

ん? いえいえ、付き合ったりしてません。

大工の休憩所として使ってた物置き小屋に連れ込まれて…ええ…
私ねえ、初めてだったんですよ。
そりゃあもう…酷い衝撃でしたよ…

ううん、そうじゃなくて…

この世に…
こんな気持ちいいものがあるのかってね…

そんな事なら
もっと早く知っておけば良かったって…
んふふ…

それからはもう…
その小屋で毎日のように…ですよ。
半月くらいの間かしら。

え? そうそう。
その人の他にも何人も大工は来てましたから…

順番に、ね。

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