桜華楼物語
第11章 木蓮
「そうか…わかりやすいか…。いかんな、こんな事では…」
苦笑しながら顎を撫でて、いかにも参った感じで溜息をつく。
不器用なのだ…とお茶を啜り、でも視線はしっかりと目標を外さずに。
「旦那はきっと真面目過ぎるんですよ。だからかえってわかりやすい…そんな風に見えるけど…」
男の横顔を眺めながら言う。
「真面目と言えば聞こえは良いがな。もう少し要領を覚えろと上役に言われる始末だ。堅いだけでは、人間相手は務まらぬとな…」
見つめてる視線にあっと気が付き、こんな話はつまらぬな…とまた苦笑する。
すいっ…と膝を寄せて近付くと窓辺に寄り掛かり。
「遊女だってみんな同じじゃないんですよ。色々な女が居てね、そこで色々な客を相手に日々務めているんです。私なんてすぐ男を信用してしまうから…散々な目にあう事も多いんですよ…」
「そうなのか…? 酷い事をされたのか…? そんな時はすぐにお上に…」
驚いたように顔を向けると、軽く乗り出してまくし立てて。
「ああ…大丈夫ですよ。大層な事じゃありませんよ…ほら…ちゃんと見張る…」
「あっ…ああ…」
叱られた子供のように、慌てて視線を窓の外に向けると。いかんいかん…と口の中で唱えてる。
外は行き交う人々の騒めきと、女達の呼ぶ声が溢れ出す夜に向かい。
男の視線は何事も逃さないように、満遍なく動いている。
「旦那…何だかおかしい…」
思わず口にすると、男の膝に触れて。
「何がおかしいのだ? 」
顔を外に向けたまま、ちらりと視線を送り。
「もうこのくらいの刻限ならば、店先には提灯が出るもんなんです。店によっては色々ですけど…昨日までは確かにこの時刻には出てましたよ。昼間はちゃんと開いてましたのに…」
それは男も気付いていた。
昼間は普通に客の出入りがあったが、夕焼けが空を染める頃に戸が閉まったのだ。
また夜になったら開くものかと思ったが…まだ閉まっている。
「そうか…。何か…動くのか…。」
暫く思案してる様子だったが、決意したように立ち上がると。
「確信は無いが普段と違うのならば、何かが起こるやもしれぬ。一旦奉行所に戻り、各所対策を検討せねばならん。」
編笠を手に御免と出ようとする男を、慌てて袖を引っ張って引き止めると。
驚いた顔のままの男を、しっかりと抱き締める。
苦笑しながら顎を撫でて、いかにも参った感じで溜息をつく。
不器用なのだ…とお茶を啜り、でも視線はしっかりと目標を外さずに。
「旦那はきっと真面目過ぎるんですよ。だからかえってわかりやすい…そんな風に見えるけど…」
男の横顔を眺めながら言う。
「真面目と言えば聞こえは良いがな。もう少し要領を覚えろと上役に言われる始末だ。堅いだけでは、人間相手は務まらぬとな…」
見つめてる視線にあっと気が付き、こんな話はつまらぬな…とまた苦笑する。
すいっ…と膝を寄せて近付くと窓辺に寄り掛かり。
「遊女だってみんな同じじゃないんですよ。色々な女が居てね、そこで色々な客を相手に日々務めているんです。私なんてすぐ男を信用してしまうから…散々な目にあう事も多いんですよ…」
「そうなのか…? 酷い事をされたのか…? そんな時はすぐにお上に…」
驚いたように顔を向けると、軽く乗り出してまくし立てて。
「ああ…大丈夫ですよ。大層な事じゃありませんよ…ほら…ちゃんと見張る…」
「あっ…ああ…」
叱られた子供のように、慌てて視線を窓の外に向けると。いかんいかん…と口の中で唱えてる。
外は行き交う人々の騒めきと、女達の呼ぶ声が溢れ出す夜に向かい。
男の視線は何事も逃さないように、満遍なく動いている。
「旦那…何だかおかしい…」
思わず口にすると、男の膝に触れて。
「何がおかしいのだ? 」
顔を外に向けたまま、ちらりと視線を送り。
「もうこのくらいの刻限ならば、店先には提灯が出るもんなんです。店によっては色々ですけど…昨日までは確かにこの時刻には出てましたよ。昼間はちゃんと開いてましたのに…」
それは男も気付いていた。
昼間は普通に客の出入りがあったが、夕焼けが空を染める頃に戸が閉まったのだ。
また夜になったら開くものかと思ったが…まだ閉まっている。
「そうか…。何か…動くのか…。」
暫く思案してる様子だったが、決意したように立ち上がると。
「確信は無いが普段と違うのならば、何かが起こるやもしれぬ。一旦奉行所に戻り、各所対策を検討せねばならん。」
編笠を手に御免と出ようとする男を、慌てて袖を引っ張って引き止めると。
驚いた顔のままの男を、しっかりと抱き締める。