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桜華楼物語

第11章 木蓮

「な…何を…する…」
相手が遊女だと思い出したように、驚いて身体を硬くして。

しがみつくように抱き締めると、胸に顔を埋めて頬を押し当てて。
そして、そのまま見上げるとにっこりして。

「何って…。遊女の部屋に上がって半日も居て…それで白粉の匂いのひとつもしないなんて。何とも不自然ってもんじゃありません…?」

んふふ…と笑う女の言葉に、その意味をなるほどと理解して。
では、と今度は自分から腕を回して強く抱き締める。

「良く気が付いてくれた…。そういう要領が足りないのだな、私は。」

部屋を出る背中を見送るつもりで見つめていると、ふと男が振り返り。

「今日は色々と世話になった。今度来る時は、ちゃんとお前の務めを全うさせてやらねばな。約束するぞ…木蓮。」

編笠を少し下げた顔から見える口元は、少しはにかむような笑みを浮かべていた。

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