桜華楼物語
第13章 葛葉
葛葉は不思議な女である。
それは…
人には見えぬものが見えるようで。
誰にも聞こえぬ声が聞こえるようで。
その黒目がちな瞳で見つめられると…まるで全てを見透かされるように感じるのだ。
「あのねえ…。私は遊女なんですよ。今日も指一本触れもしないなんて酷いこと…」
呆れたように相手の顔を眺めると、土産の団子を頬張って。
「すまねえ、すまねえ…。俺はこれでも女房一筋の一穴者よ。勘弁してくれや…」
「全く…もう団子だけじゃ勘弁しませんからね。ほんとに…」
一串食べるとお茶で流し込み。
「で、今日は何だっていうんです?」
待ってましたとばかりに、懐から一枚の富くじを取り出し目の前に置いて。
「これなんだよ、これ。よく見てくれよ…これ、当たってるかい?」
「あのねえ…。私は遊女なんですよ。占い師じゃないんだからもお…」
そう言いながら、どれどれと。
富くじと相手の顔を見比べて…。
「ん…一番とは言わないけど…いくらかは当たってるんじゃないかしら。」
軽く言うと、もう一本団子を持って。
「いくらか? 一体いくらだよ…なあ…なあってば…」
「そんなのわかりませんよ。ただ…そんな気がするだけですよ。それしか言えませんて…」
そう。それしか言い様がないのだ。
予感というのか虫の知らせというのか。
勘のように閃く事もあれば、頭の中で声がしたり…何かが一瞬見えたような。
理由は説明出来ない。
ただ、そんな気がする…としか。
しかしそれが…
見事にその通りになったり。
知らない筈の事柄や様子を言い当てたり。
それが吉原で噂となっていったのである。
決断に悩む商人、げんを担ぎたい侍、あるいは憑き物を落としたい者まで…。
葛葉を目当てにやって来るのである。
「そうかい、当たってるかい。それなら良かった。安心して眠れるってもんだ…」
上機嫌になって帰り仕度をする相手に向かって。
「外れても責任は取りませんからね。…気がするだけなんだから…」
必ず言うひと言を付け加えて、やれやれと溜息をひとつ。
遊女仲間からは、何もしないで稼げるから羨ましいと言われるけれど…。
そればかりだと、ちょっとねえ…と複雑な心持ちなのだ。
それは…
人には見えぬものが見えるようで。
誰にも聞こえぬ声が聞こえるようで。
その黒目がちな瞳で見つめられると…まるで全てを見透かされるように感じるのだ。
「あのねえ…。私は遊女なんですよ。今日も指一本触れもしないなんて酷いこと…」
呆れたように相手の顔を眺めると、土産の団子を頬張って。
「すまねえ、すまねえ…。俺はこれでも女房一筋の一穴者よ。勘弁してくれや…」
「全く…もう団子だけじゃ勘弁しませんからね。ほんとに…」
一串食べるとお茶で流し込み。
「で、今日は何だっていうんです?」
待ってましたとばかりに、懐から一枚の富くじを取り出し目の前に置いて。
「これなんだよ、これ。よく見てくれよ…これ、当たってるかい?」
「あのねえ…。私は遊女なんですよ。占い師じゃないんだからもお…」
そう言いながら、どれどれと。
富くじと相手の顔を見比べて…。
「ん…一番とは言わないけど…いくらかは当たってるんじゃないかしら。」
軽く言うと、もう一本団子を持って。
「いくらか? 一体いくらだよ…なあ…なあってば…」
「そんなのわかりませんよ。ただ…そんな気がするだけですよ。それしか言えませんて…」
そう。それしか言い様がないのだ。
予感というのか虫の知らせというのか。
勘のように閃く事もあれば、頭の中で声がしたり…何かが一瞬見えたような。
理由は説明出来ない。
ただ、そんな気がする…としか。
しかしそれが…
見事にその通りになったり。
知らない筈の事柄や様子を言い当てたり。
それが吉原で噂となっていったのである。
決断に悩む商人、げんを担ぎたい侍、あるいは憑き物を落としたい者まで…。
葛葉を目当てにやって来るのである。
「そうかい、当たってるかい。それなら良かった。安心して眠れるってもんだ…」
上機嫌になって帰り仕度をする相手に向かって。
「外れても責任は取りませんからね。…気がするだけなんだから…」
必ず言うひと言を付け加えて、やれやれと溜息をひとつ。
遊女仲間からは、何もしないで稼げるから羨ましいと言われるけれど…。
そればかりだと、ちょっとねえ…と複雑な心持ちなのだ。