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桜華楼物語

第13章 葛葉

今日の客は初めての相手。
久しぶりに、遊女本来の仕事が出来そうだと安堵する。

「ああ…そんな風に見つめられると…何だかぞくぞくするねえ。吸い込まれそうな不思議な気分だ…」
布団に押し倒されて見つめ合えば、そんな言葉を言われて。

下から抱きつくと、人肌の温もりが伝わってきて。
逞しい男の腕の力に、身体を委ねて吐息を漏らし…ふと視線は天井に。

すると。
男の肩越しの天井に、何かがゆらりと。
それは徐々に形になり、朧気ながらそれとわかるように…。

ああ…まただ…

鋭い目付きの女の顔。
天井から抱き合う二人をジッと見下ろすように…。
きっと、男と関わりのある女なのだろう。
これはきっと生き霊というヤツだろう。そんな気がする…。

生き霊に見守られながらの交わりも、もう慣れたものだけど。見えないに越したことは無い…。

事が終わり満足そうな相手に、念の為に聞いてみる。
「ねえ…あんたのおかみさんは、悋気持ちかい?」
「ん? ああ…そうなんだよ。ちょっとした事ですぐに怒ったり拗ねたり。参っちまう。…しかし、何でそんな事を聞く?」
「まあ、何となくね…。たまにはちゃんと可愛がってあげなきゃいけませんよ。」

ねえ、そうでしょ?
心の中で天井の顔に問い掛けてみる。
少し…表情が動いたような気がした…。


ある日の午後。
どやどやと廊下を早歩き、部屋に勢いよく飛び込んできて…。

「おお…葛葉。やったぞ、当たったぞ、二番くじだ。ほんとにお前は大したもんだ。だから、今日は団子じゃなくて鰻を奮発したんだぜ。」
嬉しそうに一気にまくし立てて、よいしょと座り込む。

それは良うございました…と鰻の包みを開けながら男を見ると。
何か言いたそうにそわそわして。

やれやれと苦笑すると座り直して。

「で…今日はどうしたんです…?」


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