
桜華楼物語
第14章 楓
「姐さん、あともう少しですから頑張ってくださいな」
「もう…あと少しがどれだけ続くんだい…」
文机の上に積まれた巻紙に溜息を漏らすと、ああ…と声をあげて。
筆を置くと、そのまま倒れるように大の字に。
「ああ…もうやだやだ。朝からずっとだよ。もう手が怠いし目はしばしばするし…」
子供のように駄々をこねる遊女を、母親のように慣れた様子で諭す女中。
「だからいつも言ってるじゃありませんか。文はこまめにに書いてくださいって。なのに、姐さんったらいい加減貯めるから…。自業自得ですよ。」
年下の女中に諭されても、更に子供のようにジタバタとして。
「だって…苦手なのよ。文句を考えるのも面倒だし…つい後回しにしちゃうのわかるでしょう?」
「だから、もう全部同じ文章でいいからと決めたじゃありませんか。ただ宛名を変えて、書き写すだけにしたんですから。はい、ちゃんとやる…」
うーん…と唸りながら、ゆっくりと起きると文机に向かって筆を取り。
「もう、シラフじゃやってられないわ。一本持ってきて頂戴な。」
「だめですよ。姐さん、絶対に寝ちゃうじゃありませんか…」
寝ちゃおう作戦を却下されて、いよいよ観念して筆を走らせる。
「沢山書かなきゃならないのも、それだけ姐さんのお客が多いって事ですよ。しかも文が読める上客ばかりなんですから。嬉しい事じゃありませんか…」
酒の代わりにお茶を淹れて、菓子と共に置く。
そんなものかしらね…と呟き苦笑するが、言われてみれば少し良い心持ちになる。
「ええ、ちゃんとやりますよ。…あんたも口ばっかりじゃなくて、少しは書いてくれりゃいいのに。」
軽口のつもりで言うと。
「そんなの出来ませんよ。筆の手が違ったらおかしいじゃありませんか。それに私、やる事あるんですよ。」
「やる事って?」
書き終わった文の束を自分の目の前に積むと、自分も筆と硯を用意して。
「姐さんが書いたものを、全部見本と見比べないといけませんからね。字が抜けてたり間違っていたり…。姐さんはうっかりするから、お侍あてに商売だなんて書くかもしれませんもの。」
当然という顔で作業を始める女中を見て、なるほどと妙に納得をして。
さて、何とか今日中に終わらせよう…
「もう…あと少しがどれだけ続くんだい…」
文机の上に積まれた巻紙に溜息を漏らすと、ああ…と声をあげて。
筆を置くと、そのまま倒れるように大の字に。
「ああ…もうやだやだ。朝からずっとだよ。もう手が怠いし目はしばしばするし…」
子供のように駄々をこねる遊女を、母親のように慣れた様子で諭す女中。
「だからいつも言ってるじゃありませんか。文はこまめにに書いてくださいって。なのに、姐さんったらいい加減貯めるから…。自業自得ですよ。」
年下の女中に諭されても、更に子供のようにジタバタとして。
「だって…苦手なのよ。文句を考えるのも面倒だし…つい後回しにしちゃうのわかるでしょう?」
「だから、もう全部同じ文章でいいからと決めたじゃありませんか。ただ宛名を変えて、書き写すだけにしたんですから。はい、ちゃんとやる…」
うーん…と唸りながら、ゆっくりと起きると文机に向かって筆を取り。
「もう、シラフじゃやってられないわ。一本持ってきて頂戴な。」
「だめですよ。姐さん、絶対に寝ちゃうじゃありませんか…」
寝ちゃおう作戦を却下されて、いよいよ観念して筆を走らせる。
「沢山書かなきゃならないのも、それだけ姐さんのお客が多いって事ですよ。しかも文が読める上客ばかりなんですから。嬉しい事じゃありませんか…」
酒の代わりにお茶を淹れて、菓子と共に置く。
そんなものかしらね…と呟き苦笑するが、言われてみれば少し良い心持ちになる。
「ええ、ちゃんとやりますよ。…あんたも口ばっかりじゃなくて、少しは書いてくれりゃいいのに。」
軽口のつもりで言うと。
「そんなの出来ませんよ。筆の手が違ったらおかしいじゃありませんか。それに私、やる事あるんですよ。」
「やる事って?」
書き終わった文の束を自分の目の前に積むと、自分も筆と硯を用意して。
「姐さんが書いたものを、全部見本と見比べないといけませんからね。字が抜けてたり間違っていたり…。姐さんはうっかりするから、お侍あてに商売だなんて書くかもしれませんもの。」
当然という顔で作業を始める女中を見て、なるほどと妙に納得をして。
さて、何とか今日中に終わらせよう…
