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桜華楼物語

第15章 皐月

店に上がって半年が過ぎた。
どうやら生活にも慣れてきた頃である。

親の借金のカタとして高利貸しの手から遊郭に流れてきた…。
吉原の中ではいくらでもある話。

父親は働き者だがそれを越す博打好き。
稼ぎよりも多くの借金を作り続けて、とうとう女房は娘を置いて出て行った。
残された父親は娘の為にと改心を試みるが…所詮無理な話で。

泣きながら謝る父親から引き剥がされた娘は、高利貸しの男に問われる。
慰み者として囲われるか吉原に行くか、自分で選べと。

必死に考えて、娘は吉原を選んだ。
吉原ならば、きっとまた父親と会う事が出来るだろうと…。
そして、選んで良かった…と思っている。

月に一度くらい、父親は娘に会いに来る。
相変わらず博打はしているようだが、仕事もちゃんとしているようである。

娘が幼い頃から両親は喧嘩が絶えなくて。
原因は父親にあるのだが、激しく罵り続ける母親に対してはあまり気持ちが動かずに。
罵られるままに黙ってうなだれて、己の愚かさを噛み締めているような父親に。
何故か、同情や哀れみを感じていた。

今の自分の境遇を思っても…
父親に対して憤る事は無かった。
むしろその頃よりも今の方が、静かで穏やかな暮らしに感じている。

最近、鏡の中の自分を見て思う。
母親に似てきたと。
気性は激しかったが、容姿はそれなりのものを持っていた。
しかし、違うと首を振ってみる。
自分はあんな風に父親を罵倒したりはしない。
ぶつけるだけじゃなくて、もっと母親が優しくしていたろ…。
もしかしたら変わっていたんじゃないか…。
鏡を見ながら、そう思ったりする。

もうそろそろ、父親が来そうな日にち。

僅かだが貯めてる金が少し纏まったので渡してやろうと思っている。
喜んでくれればいいな…と。

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