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始まりは冬の夜から

第2章 Act.2

 それから三十分ほどで、ようやく仕事が片付いた。
 本来ならばもっと時間がかかっていたところだけど、椎名課長も責任を感じたのか、最後まで手伝ってくれた。

「助かりました、椎名課長」

 深々と頭を下げてお礼を言うと、椎名課長は、「いや」と首を横に振る。

「元はといえば、俺が無理難題を押し付けたんだ。全く俺はいつまでもガキだな。好きな女を苛めるなんて小学生と同じだ」

「そうですね」

「――否定しないのか……」

「否定しようがないですもん」

「やれやれ……」

 椎名課長に告白されて、急に形勢逆転した気がする。
 とはいえ、仕事上では椎名課長の方が立場が上だから、これからも、仕事を命じられれば口答えしないで素直に応じる。

「藤森」

 最寄り駅まで一緒に並んで歩きながら、椎名課長が口を突いた。

「明日の休み、映画を観に行かないか?」

 突然のお誘いに、私は答えるのも忘れ、ポカンとして椎名課長を見上げてしまった。

 それで誤解をさせてしまったらしい。
 椎名課長はちょっと慌てた様子で、「いや、その」と続ける。

「別に疚しい気持ちはないんだ。つまりあれだ、『お試し期間』というか……」

 『お試し期間』という言葉に、私は噴き出してしまった。
 悪いとは思いつつ、我慢出来なくて笑い続けた。

「笑い過ぎだ……」

 不満を露わにする椎名課長に、私の笑いのツボはさらに刺激される。
 普段が普段だから、可愛い反応は反則だ。

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