テキストサイズ

始まりは冬の夜から

第2章 Act.2

「とうとう降ったか……」

 夜空を仰ぎながら、椎名課長がうんざりとばかりにぼやく。
 気持ちは分からなくもない。

「でも、粒はそんなに大きくないですからすぐに溶けますよ」

「でも、どうせまた、どっかりと降ってくれるんだろ……。交通は麻痺するし、ロクなことがない……」

「駄々を捏ねないで下さい……」

 つい、窘めてしまった。

 そんな私に、椎名課長はなおも、「けどなあ」とブツブツ言い続ける。
 やっぱり、精神年齢は私よりもだいぶ幼いと改めて思わされる。

「とにかく、明日は大丈夫ですよ。いえ、たとえ積もったとしても私は約束を守りますから。ですから椎名課長も、ちゃーんと有言実行して下さいよ?」

「もちろんだ。槍が降ったとしても、お前と一緒の時間を過ごしたいからな」

「――槍こそ降りませんよ……」

 ついつい真面目に突っ込んでしまった。

 椎名課長はまた、「やれやれ」と溜め息を漏らす。

 ゆったりと降りてくる儚い小粒の欠片。
 生まれたてのそれは、本当にささやかにしか積もらないかもしれない。

 けれど、本格的な冬となれば、辺り一面を銀世界に覆うほどになるだろう。
 不便とは思うけど、それはそれでちょっと楽しみだ。


 冬はまだ、始まったばかり。
 私と椎名課長のように――

[始まりは冬の夜から-End]
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ