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Immoral

第1章 フェイク・ラヴ

 弱音を見せてくれるのは嬉しい。
 けれども、時には自分も彼に甘えたい。
 それでも、彼が離れてしまうことを恐れている私は、いつも強い女を演じ、彼を引き留める。

 結局、私が彼に依存している。
 裏切りの原因を作っているのは、他でもない私なのだ。
 だから、奥さんに同情する資格なんて本当はない。

 彼に背中を向ける格好で横になっていると、ベッドの軋む音と同時に、ほんのりと肌の温もりを感じた。

 私は、背中越しに彼に抱き締められていた。

「今晩はゆっくり出来るよ?」

 甘い悪魔の囁きが私の耳を掠める。

 本当に狡い人だ――私も。

 私は身体を動かし、彼の胸に顔を埋めた。

 トクトクと波打つ鼓動。
 人は心臓の音を聴くと安心すると言うけど、本当に、彼も私もちゃんと生きているのだと実感出来る。

「愛してる」

 また、本音と嘘が入り混じった蕩ける言葉を口にする。

 いっそのこと、嫌いになれたらどれほど楽だろう。
 けれど、私が彼を嫌いになるなんて絶対に考えられない。

「可愛い声、もっと聴かせてくれるよな?」

 そう言うと、彼は私に口付けを落とす。
 徐々に深さを増し、私の舌を彼のそれが絡め取る。

 私の頭はぼんやりしてきて、しだいに奥さんへ対する罪悪感は闇の中へと消えていった。

[フェイク・ラヴ-End]

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