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Immoral

第1章 フェイク・ラヴ

 ◆◇◆◇

「終電、出ちゃうわよ?」

 私の隣で未だに微睡んでいる彼の肩を、何度も軽く揺する。

 彼は腕枕していた反対側の手で自らの髪を掻き上げると、気怠そうに「間に合わないからいい」と返してきた。

 そんな彼に、私は眉をひそめる。
 私こそ、責められてもおかしくない立場だというのに、呑気な彼を目の当たりにしたら、ちょっとだけ奥さんに同情してしまった。

「携帯、光ってる」

 私はローテーブルに放置された彼の携帯を指差した。

「心配してるのよ、きっと……」

 本当に、こんなことを言う自分が滑稽で仕方ない。

 彼もきっとおかしかったのだろう。
 私に向けて微苦笑を浮かべ、私の枕にされていた腕を引き抜くと、ようやく身体を起こした。

 彼はそのままベッドから降りた。
 そして、裸体を曝け出したままで携帯を手にする。

「もしもし? ああ悪い、ちょっと出るに出られなくて……。ああうん。今日中に帰るのは難しい……。ああ、本当にすまない……」

 私を抱いている時と同じ――いや、それ以上に優しい声だった。

 彼は奥さんを愛している。
 それなのに、平気で奥さんを裏切り、私を抱く。

 きっと、彼にとっての私は、疲れた時の〈逃げ場〉にしか過ぎないのだ。

 奥さんには〈完璧な男〉の姿しか見せたくないから、どうしようもなく苦しくなると、私の元を訪れて来る。

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