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ビタースイートに隠し味

第3章 Act.3

 宣言通り、椎名課長が料理をほぼ全部平らげた。
 ただ、やっぱり無理をしたようで、ちょっと苦しそうに見えた。

「大丈夫ですか……?」

 恐る恐る訊ねる私に、椎名課長は、「大丈夫」と強がる。

「デザートは別腹だ。まだ食える余裕はある」

 まるで女子の発言だ。
 そんな私こそ女子なのだけど。

 空になった料理の食器が全て片付けられてから、入れ替わりにアフォガードが運ばれてきた。

「ごゆっくりどうぞ」

 それぞれの前にアフォガードの食器と小さなコーヒーのポットを置いてから、従業員はゆっくりと席から離れる。

「さて、最後の楽しみだ」

 椎名課長は料理が運ばれてきた時以上に嬉しそうにしている。
 熱いコーヒーを冷たいバニラアイスにかけ、ほど良く溶けたところでスプーンを掬う。

「熱いのか冷たいのかよく分からんのがいいな」

 本当に幸せそうに噛み締めている。

「おい、さっさと食わないと溶けてなくなっちまうぞ?」

 椎名課長に指摘され、私も半ば慌てて椎名課長がやっていたようにしてみる。

 椎名課長の言う通り、冷たいアイスが熱いコーヒーに溶かされ、不思議な感じだった。
 また、コーヒーが無糖だから、アイスと混ざってほど良い甘さとなる。

「これさ」

 食べるのに夢中になっていたはずの椎名課長が口を開いた。

「ブランデーを一緒にかけても最高なんだよ。実はたまにウチでやってる」

「へえ」

「食ってみたくない?」

「食べてみたいですね。ブランデー入りも美味しそう」

「なら、これからウチに来る?」

 サラリと誘われ、私の手は宙に浮いたまま止まった。

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