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ビタースイートに隠し味

第3章 Act.3

「えっと、なんの冗談ですか?」

 からかわれているのでは、と思った私は、内心動揺しつつも冷静を装いながら訊ねる。

 少しでも表情の変化を見逃すまいと椎名課長をジッと睨む。
 けれど、椎名課長はニコリともせず、私に真っ直ぐな視線を注いでくる。

「――本気、ですか……?」

 おずおずと訊ねると、椎名課長が首を縦に動かした。

「もう、いい加減お試し期間は終わりにしないか?」

 改めて言われ、私の胸の鼓動がさらに高鳴る。

 椎名課長の言うことももっともだと思う。
 好意に甘え、私は現状のままで満足していたけれど、椎名課長は決してそんなことはなかった。

 私は、改めて椎名課長に想いを伝えたことがない。
 いや、伝える自信がなかった。

 夜のデートに誘われたことで何かしら起こるであろうことは予想していたものの、いざとなると困惑してしまう。

 もし、私がこの場で拒絶すればどうなるか。
 でも、椎名課長のことだから、無理強いは絶対にしない。
 だからこそ、ここではっきりさせないと、またズルズルと中途半端な状態が続いてしまう。

 テーブルに置かれたままの私の左手に、椎名課長の右手が重ねられる。
 手を繋ぐこともしなかった椎名課長が、初めて私に触れてきた。

「――課長は」

 ようやくの思いで口を開いた。

「私とこれからどうしたいと、思ってますか……?」

 自分でも何を訊きたいのか分からなかった。
 けれど、今、椎名課長がどんな想いを抱いているのか知りたい。

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