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Melting Sweet

第5章 Act.5

 それから私は、杉本君に案内されるがままに歩き続けた。
 ただ、しだいに人気のない路地裏に入っていったから、さすがに心配になってきた。
 あろうことか、ラブホテルまで目に飛び込んできたのだから、警戒しない方がおかしい。

 ――杉本君に限ってそんなことは……

 ない、とは思いたいけれど、彼だって健全な若い男子だ。まさかの事態もありえなくはない。

 杉本君の隣を歩きながら、私はひとりで悶々と考える。
 もし、無理矢理ラブホに連れ込まれたらどう対処するか。

 女の私では力で敵わないのは明らかだ。
 だとしたら、脛を蹴るか腕に噛み付くなりしてから、猛ダッシュで逃げるか――

「……ん、唐沢さん?」

 杉本君に呼ばれ、私はハッと我に返る。
 ちょうど真ん前に杉本君の顔がアップで目に入ったものだから、すっかり仰天して不自然なほどに後ずさってしまった。

「――大丈夫ですか? やっぱほんとに体調悪いんじゃ……?」

「だ、大丈夫よ大丈夫! ちょっと考えごとしてただけだから!」

 動揺しまくっている私を、杉本君は怪訝そうに見つめる。

「――ほんとに平気ですか? 無理なら言っていいんですよ?」

「む、無理はしてないから! それよりも、どこまで行くの?」

 杉本君はなおも疑わしそうな視線を注いでから、「そこですよ」と指差した。
 そこにあったのはラブホ――ではなかった。

「ちょっと辺鄙な場所にあるでしょ?」

 ポカンとしている私に、杉本君が苦笑いを向けてくる。

「けど、ここは穴場ですよ。日本酒は特に種類が豊富ですから、日本酒好きにはおすすめな店です。あ、唐沢さんは日本酒いけますか?」

「あ、うん。ビールの方がよく飲むけど、日本酒も飲めるわよ」

「なら良かった」

 私の返答に杉本君は満足そうに頷く。
 そして、私を促し、おすすめの酒場の引き戸に手をかける。
 木で造られたその戸は重そうで、杉本君も少し力を籠めて開けていた。

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