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Melting Sweet

第5章 Act.5

「どうぞ」

 ここは君のウチか? という突っ込みは心の中で留め、言われるがままに中に足を踏み入れる。
 私に続き、杉本君も戸を完全に閉めてから入った。

 外観でも何となく察したけれど、店内もまた、いい具合に年季が入っている。
 私が生まれた頃か、それ以前からある店なのだろう。
 壁に貼られたお品書きはすっかり黄ばみ、広告用のビールのポスターも、いつの時代のものなのかと疑問に思うほど色褪せてしまっている。

 カウンターもまた、雑然としている。
 招き猫は分かるとして、わけの分からないどこかの民芸品らしきものも山のように置かれ、清潔感に欠けるな、とさすがに引いてしまった。

 ――よりによって、なんでこの店を……?

 チラリと杉本君を睨むも、杉本君は全く気付かず、「二階、空いてます?」と女将さんらしき女性に訊ねている。

「空いてますよ。その階段からどうぞ」

「ありがとう。それと、宵の月お願い出来ますか?」

「はいよ。今持って行くからお待ちを」

「お願いします」

 杉本君は女将さんににこやかに会釈してから、一番奥にある階段の前まで歩き、靴を脱ぐ。
 私もそれに倣った。

 階段を昇りきると、すぐ目の前に襖が見えた。
 杉本君は慣れた様子で手をかけると、それをゆっくりと引いてゆく。

 店に入った時同様、杉本君に促された私は、最初に部屋に入る。
 パッと見た感じ、十畳はあるだろうか。
 どう考えてもここは、少人数で使うような部屋じゃない。

「落ち着きませんか?」

 ぼんやりと部屋を見回している私に、杉本君が声をかけてくる。

「落ち着かない、っていうか……。ここでほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」

 杉本君はニッコリと笑いながら続けた。

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