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Melting Sweet

第5章 Act.5

「どうぞ」

「それじゃ、刺身の盛り合わせと玉子焼き。あとは肉じゃがもお願いします」

「はいよ」

 入った時も思ったけれど、女将さんは愛想が良いとは言えない。
 客商売をしている身でどうなんだろう、と気になりつつ、全体的な店の雰囲気で妙に納得させられてしまう。
 それに、不思議と不快感も全くなかった。

 私達が入った時は襖を開けたままにしていたのだけど、女将さんはご丁寧にちゃんと閉めてから階下に降りた。
 私達への配慮なのか、それともただの習慣なのか。

「飲みましょうか?」

 女将さんの気配が完全に消えてから、杉本君は枡ごとコップを手に取る。

「あ、そうね」

 私も杉本君に倣って、同じようにコップを持つ。
 そして、互いにゆっくりとコップを近付けてから乾杯すると、コップの縁に口を付けてお酒を啜った。

 水のように透き通った日本酒は、口に含むとほんのりとした甘さが広がる。
 癖も全くなくていくらでも飲めそうだ。

「飲みやすい」

 正直に思った感想を述べると、杉本君は、「そうでしょ?」と嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

「女性向けな酒ですからね。口当たりが良いから、日本酒が苦手な人でもサラッと飲めるんじゃないかな? まあ、俺は酒だったら何でもいいんですけど。要は美味く飲めればいいんです」

「飲んべえの発言ね」

「そういう唐沢さんは?」

 私は小首を傾げながら、悪戯っぽく口の端を上げた。

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