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Melting Sweet

第5章 Act.5

「見た通り、ほんとはここ、宴会用の座敷なんですけどね。けど、予約が特に入ってない時はこうして自由に使わせてもらえるんです。もちろん、ひとりの時はさすがに下で飲みますよ。でも、ここに来る前にも言いましたけど、唐沢さんとふたりでゆっくり飲みながら話したかったから、あえてここにしたんです」

「――下でも別に良かったのに……」

 別に深い意味で言ったつもりはなかった。
 けれども、杉本君は誤解したらしく、「違いますから!」と急に慌てふためいた。

「俺、唐沢さんに下心があって、変なことしようとかそんなのは全く考えてないですから! ほんとです! もし、何かしようとしたら俺のこと、煮るなり焼くなり好きにして構いませんから!」

 一気に捲し立てられ、私は一瞬、ポカンとした。でも、しだいにおかしくなって、思わずクスクスと笑ってしまった。

「そんなに必死にならなくったって……。なにもそこまで杉本君のことを疑ってないわよ」

「そ、そうですか……?」

「私なんかによく絡んできて、ちょっと変な子だとは正直思ってたけど」

「――すいません……」

 深々と頭を下げる杉本君に、今度は私が「ほら」と声をかけた。

「立ったままでいたら、それこそ女将さんに変に思われちゃうわよ? お酒がくるまで座って待ちましょう」

「そ、そうですね」

 杉本君は小さく頷くと、先に立って座敷の一番奥へと進み、座卓を挟んで向かい合わせに座った。

 まさにそのタイミングで、女将さんがお酒とお通しをお盆に載せて持ってきた。
 お酒はコップに並々と注がれ、下に敷かれた木製の枡にまで溢れている。

 女将さんは私達の前にそれらを置く。

 すると、杉本君が間髪入れずに、「注文、いいですか?」と訊ねる。

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