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Melting Sweet

第5章 Act.5

「――私、そんなたいそうな人間じゃないわよ……」

 恥ずかしさに耐えかねて、ポロリと漏らしてしまった。

「どこに行ったって女ってだけで舐められるから、強くてしっかりした女を演じないとダメなのよ。職場では特にね。
 私はほんとはひとりでいることに耐えられない性格だから、杉本君ぐらいの頃は合コンにたくさん参加して、そこで出逢った男と付き合ったこともあった。とにかく、誰かの温もりが常に恋しくてね。――でも、よっぽど男運が悪いのか、すぐに浮気されて最終的には喧嘩別れ。もちろん、一番悪いのは、全く見る目がなかった私だけど……。ちょっと優しい言葉をかけられると、すぐにコロッと騙されるから……」

 ここまで言って、私はハッとした。
 何故、杉本君を前にこんな話をしてしまったのか。

 私は気まずさを誤魔化すように、日本酒をグイと呷る。
 空になったコップを枡の横に置くと、恐る恐る杉本君を見た。

 杉本君はジッと私を見つめている。
 まだ半分ほど残ったコップ酒を手に、神妙な面持ちだった。

「――人の温もりが欲しいと思うのは、誰だって同じじゃないかな?」

 杉本君は日本酒で口を湿らせてから、続けた。

「俺だって、誰かに側にいてもらいたいって思うことがあります。ひとりでいるのは確かに気楽ですが、誰もいないアパートに帰って、コンビニ弁当をつまみにビールを飲むのは虚しいですから。でも、誰でもいいわけじゃないんですけどね。――自分がそばにいて欲しいと思う人は、自分が本当に好きな人だけです……」

 杉本君の言葉に、私はドキリとした。
 別に深い意味はなかったのかもしれない。
 けれども、杉本君が言う、〈本当に好きな人〉がどうしても気になってしまった。

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