テキストサイズ

Melting Sweet

第5章 Act.5

「あの……」

 私が言いかけた時、襖の向こうから、「失礼しますよ」と声をかけられた。女将さんだ。

「あ、今開けます」

 杉本君はその場から立ち上がり、襖を開けた。

 女将さんは、杉本君が注文した料理、そして、気を利かせてお酒の追加も持ってきてくれた。
 しかも、宵の月の酒瓶をそのままと氷入れまで。

「すぐ飲みきっちゃうんじゃないかと思いましたからね」

 そう言いながら、座卓の上に刺身と玉子焼き、肉じゃがをそれぞれ載せてゆく。
 もちろん、取り皿も用意されている。

「それじゃ、ごゆっくり」

 女将さんは、よっこらせと腰を上げ、お盆を手に階下に戻って行った。
 襖もしっかり閉めきっている。

「食いませんか?」

 女将さんがいなくなってから、杉本君が言う。

「あ、そうね」

 私は箸を手に取り、ほんのりと焦げ目のついた玉子焼きを掴んだ。
 断面を見るとほとんど隙間なく綺麗に巻かれていて、料理音痴な私はただただ感心する。
 口に入れると、出汁と砂糖の甘味がいっぱいに広がり、いっぺんに幸せな気分に浸れた。

「ああ、この玉子焼きほんと美味しい」

 素直な感想を口にした私に、杉本君は、「ここの女将と大将はどっちも料理上手ですから」とまるで自分のことのように得意げになっている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ