テキストサイズ

Melting Sweet

第2章 Act.2

 八月下旬、同部署の課長の異動が決まり、部署内で送別会を兼ねた親睦会が催されることになった。
 つまりは飲み会だ。

 私はあまり乗り気ではなかったのだけど、これでも一応、主任という肩書きがあるから故意に欠席するわけにもいかない。
 そう思い、仕事が終わってから、ひとりで送別会兼親睦会をやる大衆居酒屋へと向かおうとした。

「唐沢(からさわ)さん!」

 こっちの気分とは対照的な爽やかな声が私を呼ぶ。

 私は気付かぬふりをして歩き続けたのだけど、声の主はすぐに私に追い着き、「お疲れ様です」と、またにこやかに挨拶してくる。

 声の主は呼ばれた時からすぐに察した。
 だからこそ、あえてシカトしたというのに。

 でも、ちゃっかり隣に並ばれてしまった以上、知らんふりするわけにもいかない。
 私はニコリともせず、「お疲れ」と返す。

「杉本(すぎもと)君、自分の仕事は終わったの?」

 面倒だと思いながら、ついつい話しかけてしまった。

 彼――杉本君は相変わらずニコニコしながら、「ええ」と頷く。

「飲み会に最初から参加する気満々でしたから頑張りましたよ。男の会費は高いですから、やっぱ元はしっかり取っときたいじゃないですか」

「ふうん……」

 丁寧に答えてくれた杉本君に対し、我ながらずいぶんと愛想のない反応だ。
 けれども、杉本君は気分を害した様子はない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ