テキストサイズ

お稲荷こんこん

第5章 新たなこと

朝日で明るくなり始めた頃、花とお水を持ってお堂に向かう。
お務めを終えて、手を合わせる。

今日から、守り人となります。
ばあちゃんみたいになれるように…精進します。
宜しくお願いします。

帰りかけて、ふと思い出して…もう一度手を合わせ。
それから、頑張ってくれてる諭吉に…どうか細やかなご利益がありますように…。

今日は本の整理で、一日終わってしまうだろう。
それから…引っ越したよ通知を作らないと。

歩きながら、やる事を指を折り確認する。
村の中心に向かうと、こじんまりとした商店が並ぶメインストリート。
一軒の豆腐屋に入ると、店のおばちゃんが顔を出して。
「あれ、りんちゃん。あんた、帰ってきたんだって? ずっと居るの?」
「そうそう。もう住民票移したから、バッチリよ。」
思わずピースサイン。
「そうかい…。ばあちゃんもきっと喜んどるわね…うん。」
おばちゃんはしみじみと頷き。

「でね、今日は油揚げ…買いに来た。」
「ああ…待ってたよお。ばあちゃんが居ないのに、ついクセで沢山作ってしもうて…」
全部持っていき…とゴッソリと持たせてくれて。
今日は引っ越し祝いにお代は要らない…と。

両手に持った袋の重さが、そのまま人の気持ちのような気がする。
それはとても嬉しいこと。
あの夜の、子供の言葉が忘れられない…。

ばあちゃんのお稲荷さんだ…

あの一言で…
私はばあちゃんに許された…と勝手に思ったのだ。
守り人になってもいいよね…って。

家に着くと、早速割烹着に腕を通す。
やる気満々で作業に取り掛かった。

大釜からグツグツと煮える音がする。
ばあちゃんが毎日聞いていた音。
これからは、私が毎日のように聞いていくんだ。

あんまり張り切り過ぎるなよお…
お前ときたら、気負い過ぎてスコンと抜けるんだから…

解ってるよ、ばあちゃん。
私らしく…でしょ?

大釜の中は良い香りと共に、丁度良い色合いに。
少し味見をして、火を落とすと蓋をする。
後は一晩かけて、もっと美味しくなる。

さあて、また本の整理に取り掛かろう。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ