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お稲荷こんこん

第5章 新たなこと

諭吉の持って来た企画や依頼、そして読者カードなどに目を通す。
こんなしがない物書きでも、期待してくれる人がいるのは嬉しく有難いことだ。

日常の仕事をこなしながら、引っ越しの備えと準備を進めて行った。
日にちは思ったよりも早く決まり、ラストスパートだ。

引っ越しの当日までに、大まかなものの箱詰めは終えた。何度か諭吉が来て手伝ってくれた。
お狐様のご利益はどこへ行ったんすか…という少しの愚痴とボヤキも交えて。

引っ越しの当日、トラックよりも早く諭吉が来た。
もう準備は出来てるから、特に来てくれとは言ってなかったのに。
「来てくれるのは有難いけど、そんなに有休取って大丈夫? ちゃんと仕事してるのか?」
少し心配になって聞くと、へへんと胸を張って。
「今日は業務扱いっす。らこりん先生の担当としての仕事っすよ。」
ありがとう。…でも、らこりんはやめなさい…。

荷物を摘んだトラックの後を、諭吉の車でついて走る。
持っていく家具はそんなに多くない。多いのは大量の本だ。
こりゃあ、部屋がひとつ占領されるなあ…。
古い家の床が抜けないかしらん…。
なんて事を考えながら、村が近づいてくる。

稲荷堂に着き、運びこまれる様子を見ながら役場に電話を掛ける。
おっちゃんの声は、相変わらずデカいこと。

裏の墓地に行くと花が供えられていた。
きっと村の人が手向けてくれたんだろう。
手を合わせて目を閉じる。

ばあちゃん、ただいま。
母さん、帰って来たよ。
じいちゃん、これから宜しくね。

持って来た本の段ボールを、全部ひとつの部屋に置いてみた。
量的にこの部屋は書庫状態だな…。
足踏みしながら歩いてみると、床はどうやら大丈夫らしい。

「いよいよ、田舎暮らしの始まりっすね。考えたんすけど…らこりんの田舎ライフ…みたいな連載はどうすか?」
「ん…考えておく。あ、らこりんは却下。」

ここの生活に落ち着いてきたら、考えてみようと思ってる事がある。
いつか…いつになるか解らないけど。
ばあちゃんとお狐様の物語を書いてみたい。
実話となるか創作となるか、どんな形にするかはまだまだ先の事だけど。

ばあちゃんの事を、何かで残しておきたいのだ。

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