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小さな妻

第16章 15.新婚生活

遅い……。

10時になっても美優が来ないので、私は少し焦り始めた。

もしかすると、昨日彼女の気に障るようなことを言ったのではないか?と、昨日の一部始終を思い出して一つずつチェックをした。

しかし、美優は帰りがけに嬉しそうな笑顔をしていたことを思い出し、心配がすべて杞憂であることを何度も確認した。

――コンッコンッ!
と、小気味良いノックの音が聞こえ、部屋の中に一気に光が指したような感じがした。

私の視界に映る景色はキラキラと輝いているようで、脳内に幸福ホルモンが溢れていることが実感できた。

「は~い!!」

私は《妻》を迎えるために、スキップを踏むように軽やかにドアに向かい、鍵を開けた。

今日から本格的に彼女との《新婚生活》が始まるのだ!!



――!???

「吉岡さんですね?●●署です。1階下の女の子のことでお聞きしたいことがあります。署までご同行頂けますか?」

ドアの向こうにはスーツの男と、数人の制服警官が立っていた。

「え?何がですか?え?ナニ?」

と、たじろぎどうすることもできない私にスーツの男がさっきよりも強い口調で言う。

「美優ちゃんのこと……。言わなくてもわかるよね!?お母さんから通報があったんだよ!!早く用意しなさい!」


私は何が起きたのか理解できなかったが、これから自分がどうなるのかは、だいたい予想ができた。

服と財布、スマホだけを持って警官たちに取り囲まれるように部屋を後にした。

歩きなれた団地の廊下はグニャグニャとした感触で、少しめまいもした。


フェンスから道路が見え、そこは回転する赤色灯を点けたままのパトカーが数台止められ、近所の住人が数人単位で固まってこちらを眺めている。


エレベーターの中は暑く、警官たちが吐き出した二酸化炭素で充満して気持ちが悪くなった。

昨日飲んだ酎ハイが残っていて、喉が不快だった。

せめて水だけでも一杯飲んできたらよかった……と後悔した。



マンションのエントランスに出ると、住民たちが冷たい視線を突き刺して来る。


そこには、美優を抱きしめて鬼のような形相をした、母親もいた。

母親に頭を抱えられたまま美優は顔をこちらに回転させ、私と目が合った。


私は《自分の妻》に対して小さく笑みを浮かべたが、美優は無表情のまま母親の胸に顔をうずめた。


~END~
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