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堅実メイドの献身

第6章 そもそもメイドなるものは

待っている間手持ち無沙汰なので、暎人に目をやる。
ネクタイとジャケットはソファの脇に置かれ、シャツの第二ボタンまで外して足を組みソファに座っている。

ー 片付けてもいいかな。

静かに近づいて、ジャケットとネクタイを回収する。
そのまま、クローゼットに移動しハンガーを取り出すと、ジャケットとネクタイをかけクローゼットの扉にハンガーを引っ掛けた。

ー ブラシと消臭スプレー、、あ、あった。

優しくブラシで細かな埃を払い、消臭スプレーを全体に吹きかける。スプレーはシワを伸ばす目的もある。

毎日の手入れでスーツの持ちが変わる。
これもメイドの仕事の一つである。
あとで、パンツも同じ様にしなければ。
終わって振り返ったところで、暎人と視線があった。

「お疲れ様です。読書はもうよろしいのですか?」

「あぁ、ありがとう。一旦休憩にするよ。」

そう言って、開いたページを下にして机に置く。

ー 超訳 ニーチェの言葉  へぇ、さすが賢者。

タイマーを見ると残り1分切っていた。
タイマーをストップしてカップとソーサーをセットする。
カップに残った湯を淹れ、温めると湯を捨てポットのハーブティーを注いだ。
透き通った黄緑色の液体から香りが広がる。

「カモミールか。」

暎人が香りでわかったのか呟く。

「お嫌でしたか?他のものもございますよ。」

「いや、いい香りだ。いただくよ。」

ガラスの容器を机にそっと置く。
なるべく、暎人に近くならないよう、ギリギリの距離を保ってお出しする。

「くすっ、もしかして警戒してる?」

カップを持ち上げながら暎人が微笑む。先ほどまでの真剣な表情はなくなり、いつもの柔らかい雰囲気だ。

「正当防衛です。」

雅は真顔で答える。本当に今日は防衛しなければという気持ちだ。

「傷つくなぁ、まだ何もしてないよ。」

一口ハーブティーを口にすると、特に落ち込む様子もなく微笑みながら返された。

「そんなに固くならないで、雅もこっちで一緒にお茶しよ?」

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