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堅実メイドの献身

第7章 宮古家のメイドなるものは

先ほどまで泣きそうだったのに急に笑い出した。はたから見たらかなり怪しい。ひとしきり笑い終わると、今度は黙りこくった。

ー あと、もう少し。もうちょっとだ雅。

心の中で自分を励ます。そうでもしないとやってられない。
手すりを掴む腕に力を込め、のろのろと立ち上がるとまた一歩一歩残りの階段を降りる。

「ん、、。」

ー ん、感じちゃう

「伊東さん?」

「きゃぁっ。」

急に呼ばれてびっくりしたのかもしれない。もしくは、気を抜いていたからかもしれない。
踏み出した片足は、次の段を踏みはずしずり下がる。とっさに力を込めた腕も、手すりを掠めて空を切った。

ー あ、落ちる。

足首がぐにゃりと折れて、バランスを崩した身体が宙に浮く。

どさり

「っ、、いたい。」

衝撃に体を丸めて堪える。

「おやおや、大丈夫ですか?」

見上げると、藤井が怪訝そうにこちらを見ていた。
よりによって一番出くわしたらまずい相手だ。

「あっ、いえ。」

とっさに視線をそらしてしまった。急に心臓がバクバク脈打つ。

ー まずい。

「大丈夫です。ちょっと足を踏み外してしまって。」

バクバクとなる心臓を押さえつけなるべく平静を装う。

「ちょっとというか、結構豪快に落ちましたね。」

そう言って藤井は膝をつき、雅が立ち上がるのを手伝う。

「ははは。ちょっと上の空になっていて。」

笑いでごまかし、藤井の手を借り立ち上がろうとした。

ズキっ

ー え、足痛い。

痛みで一瞬止まるが、無理やり立ち上がる。

「どうされました?」

藤井が首を傾げ聞いてくる。

「あ、いえ、藤井さんこそこんな遅くまでお疲れ様です。」

足の痛みは無視して、ありきたりな世間話しでやり過ごす。

「私はこの時間はいつも屋敷内の見廻りです。」

「そうでしたか。でも、あまり無理せず早めにお休み下さい。では、私も部屋に戻りますので。」

若干逃げ腰になりながら、くるりと振り向き歩き出す。

ズキッ

「っ、い゛。」

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