ひとつ屋根の下の愛情論
第16章 残酷な残り香
今日も…誰も帰らない自宅に帰る。
その足取りは…重く――――…動かない。
夏から伸ばしている髪が…フードからハラリと落ちる。
伸びた――――…
そのくらい、俺の気持ちは続いていて――――多分…
これからも…
下を向いていた顔を上にあげると、華やかなイルミネーションが広がった。
「こんな日に――――一人かよ…」
受験生に、こんな日も…あんな日もないのは分かっている。
だが――――…
せめて…帰って来てほしい。
「律――――か…」
俺のカサカサな唇はぎこちなく開く。
そして、愛しい人の名は乾いた空気の中へと溶けていく。