ひとつ屋根の下の愛情論
第16章 残酷な残り香
客間にある律夏の布団には…まだ、律夏の残り香がある。
早く帰って――――…布団に包まれたい。
やっと足が動く。
「あれ?――――弟くん?」
「…ぁ――――…木戸さん」
やっと動いた足を再び止め目の前の人を見る。
律夏の職場の後輩…木戸がワクワク顔で立っていた。
「お?学校の帰りっすか?――――って、そろそろ冬休みっすね!受験生は追い込み、本番!勝負の時期っすね!」
言いたい事がいっぱいあるのか、木戸はペラペラと喋り出す。
「木戸さんは…これから出勤ですか?」
塾の講師は出社がバラバラだと律夏が言っていた。木戸は担当教科も“歴史”とピンポイントだ…出番もすくなさそうだ。
「そうっす!――――って、弟くん…痩せた?体調不良はだめだよ?本番まで引きずると――――痛い目みるっす!」
ドキッとした――――…確かに…食欲がない。
律夏と一緒の時は…何かしら作って食べていたのに…今は、栄養補助食品のゼリーなどで食事を済ませていた。
「追い込みですから――――…食事の時間も勉強に当てたいくらいです」
「そんなに…実力より上を目指してるんすか?入って終わりじゃ…ないんっすよ?」
どこか頼りなさそうでも…講師なんだなぁ…と、思う発言に「ですね…」と、笑いながら答えてしまう。