ひとつ屋根の下の愛情論
第16章 残酷な残り香
勉強の区切りを見て――――夜に出かける俺に、両親は心配していたが…
「神頼みをしないと…危ないから」
と、苦笑いすると…父さんは「賽銭…奮発しろ」と、一万円を俺に手渡した。
「太っ腹、父さんと義母さんの長生きも祈願してくるよ」
「それは、おまけ程度でいいからな」
父さんの声を背に俺は家を出た。
玄関を出ると、刺すような寒さが体を驚かせる。
――――あぁ…この痛みをアイツが俺にくれるのなら…
この寒さも天国なのに…
そう言えば――――…客間の布団からは…
もう律夏の香りはしなくなっていた。