ひとつ屋根の下の愛情論
第3章 弟の悪夢
あの異様な光景が――――俺の目に焼き付いて離れない…
幸い――――秋音は目隠しされ…犯人の顔もその状況も視覚的には見ていない…
聴覚と感覚だけでの記憶だ――――…いくらでも塗り替えられると…俺は思っていた。
しかし――――視覚を奪われ、叫ぶことも、動くことも出来ない秋音の聴覚と感覚は極限に研ぎ澄まされ…
強く記憶に刷り込まれていた――――…
寝ても覚めても…その感覚に襲われ…
秋音は泣き続け――――…とうとう…眠れなくなっていた。
人に触れられるのは…もちろん嫌がり――――…
耳元で囁かれると…無条件で吐いた。
日に日に顔の腫れも引き――――顔は事件の前のように綺麗になったが…
心と体は――――ボロボロになっていった。
“うつ病”になるかもしれないと診断されたが…
秋音も分かっていたのか…そこは何とか踏みとどまっていた。
「誰にも――――迷惑をかけたくない」
と、ボソッとカウンセラーの人に話しているのを聞いた俺は…
一人で頑張ろうとする秋音に…寄り添おうと…誓った。